ナベプロを取り上げるタブー
文=本多圭(ほんだ・けい)
ナベプロ大澤剛元常務
「週刊文春」(文藝春秋)に六本木ヒルズの多目的トイレで“テクアウト不倫”を繰り返していたと報じられた、お笑いコンビ・アンジャッシュの渡部建。芸能マスコミの話題は、このスキャンダルで持ち切りだが、一方で、同じ文藝春秋社内にありながら、「週刊文春」とはライバル関係にあるとされる「文春オンライン」が報じた「ワタナベエンターテインメント」常務取締役だった大澤剛氏による、セクシャルハラスメント問題はあらゆるメディアで黙殺されている。
文春オンラインが報じたのは、大手芸能事務所・ワタナベエンターテインメントの常務取締役だった大澤氏が、2018年末から1年以上に渡り、自身がプロデュースする男性アイドルグループのメンバー西岡健吾に対してセクハラを行っていたというもの。その中には、自身の立場を利用したわいせつ行為も含まれ、報道を受け大澤氏は役員を解任されたが、スポーツ紙やワイドショーは、ナベプロに忖度し、このニュースをスルー。代わりに、渡部のゲス不倫ばかりを報道したが、昭和から平成、令和にかけて芸能プロを取材してきた筆者からすれば、大澤氏のセクハラの方が大問題だという認識。
「ワタナベエンターテインメントは、故・渡辺普さんと奥さんの美佐さんが設立した芸能プロダクション『渡辺プロダクション』の数ある子会社の一つですが、実質的にはグループの中心企業。ナベプログループは、長女の渡辺ミキさんと次女の渡辺万由美さんが継いだ形。業界では、ホリプロと並んで世襲制が成功したプロダクションといわれていたが、他方で、今回の大澤氏の様に、芸能プロ幹部がタレントを私物化したり、マスコミを威圧的に牛耳る悪しき体質は変わっていない事があらわになった」(ある大手の芸能プロ幹部)
渡辺プロダクション渡辺万由美代表取締役社長(左)と
ワタナベエンターテイメント渡辺ミキ代表取締役社長(右)
昭和40年代、同社は、“ナベプロ王国“と呼ばれる程の権勢を誇り、メディアをも支配。ところが昭和48年、ナベプロが、日本テレビの人気番組『紅白歌のベストテン』の裏で、新人発掘の歌番組をスタートさせ、それまで蜜月関係にあった日テレとの関係が悪化。その間隙を縫って台頭したのが、ナベプロに代わり、日テレと強固な関係を築いた、当時、新興プロと呼ばれた「ホリプロ」「サンミュージックプロダクション」、「バーニングプロダクション」等だった。因みに、当時のジャニーズ事務所は、既成プロとは一線を画す、芸能界の“番外地”的存在。
当時はまだ新興プロだったバーニングの周防郁雄社長は「音楽出版権」ビジネスに着眼。年末の風物詩『日本レコード大賞』に目をつけると、“賞レース”を請け負う事で勢力を拡大する一方、芸能マスコミとの関係強化に尽力し、やがて“芸能界のドン”と呼ばれるようになった。
そうしてバーニングが台頭すると、周防氏の虎の威を借り、バーニングと関係が近いケイダッシュのマネージャー谷口元一氏(現ケイダッシュ取締役、関連会社パールダッシュ社長)がマスコミを牛耳る様になった。なかでも谷口元一氏は、タレントを私物化し、その結果、同社に所属していたフリーアナウンサーの川田亜子さんが自殺に追い込まれたとの噂も流れたが、谷口元一氏に忖度したマスコミが真相を追及する事はなかった。
「昭和、平成を生き抜いてきた芸能界の重鎮たちも、今は高齢となり一線を退いた。代わって業界をリードしているのは、ナベプロの渡辺姉妹と、ホリプロ創業者の息子2人。彼ら新世代の経営者たちはスキャンダルとは無縁で、“ザ・芸能界”の時代は終わった、といわれていた。だから、文春オンラインが報じた大澤常務のセクハラ疑惑には、愕然とした」(前出の大手プロ幹部)
他方、これまで大澤氏から圧力を受けてきたスポーツ紙記者やワイドショーのリポーター、芸能デスクは、文春オンラインの記事を受け小躍りしたという。事実だとしたら、情けない話。何故なら、大澤氏をここまで勘違いさせたのはマスコミの責任だからだ。
大澤氏はマスコミに圧力をかける一方、接待やネタ提供を通じ、記者たちを籠絡。そんな輩に、大澤氏やナベプロを批判できないのは当然。
昭和の時代から力を持つ芸能プロによってマスコミは骨抜きにされ、ライバル潰しの為のネタを提供しては、見返りの恩恵に浴してきた。平成から令和に入っても、この悪しき体質は変わっていない。
芸能ジャーナリズムを標榜するなら、このなれ合い関係を断ち切るべき。そうしなければ、芸能プロの悪しき体質はいつまでたっても改善されないだろう。
本多圭(ほんだ・けい)
芸能取材歴30年以上、タブー知らずのベテランジャーナリスト。