私はそのニュースに関心を持っていなかったのだけれど、今日、その男性が相手が警察でも大臣でも関係ない、見つけた子供は自分の手で両親に引き渡すと言って、それを有言実行されたというニュースを見つけて読み、そこから母のことに思いが及んだ。
入水自殺をした母の遺体が上がったのは次の日の朝だった。
それまで、消防だか警察の人だか知らないけれど、皆んなで母を探してくれた。
何も出来ずに家で待機していた私たちの元に母が見つかったとの連絡が入り、その場所へ駆けつけた。
水の中から引き上げられたままの状態で、母はそこに横たわっていた。
「お母ちゃんっ!!」
思わず駆け寄ろうとすると、そこにいた消防だか警察の人だかが言った。
「触らないで下さいっ!!」
?
??
私たち家族ですけど?
その私たちが母に触れない、触らないで!って、見ず知らずの他人から言われる?
何それ?
母は一体誰のものなの?
とてつもなく感じた違和感。
けれど、私たちはその言葉に従った。
午後になって、警察から家族に検死の立会いをして欲しいとの連絡があり、警察署へと向かった。
指示されたのは、警察署の外に何棟かあった、シャッターの付いた個別の駐車場のような棟の一つ。
中へ入ると、空調も何も無い、コンパネが敷いてあるだけの台の上に、全裸にされた母が横たえてあった。
「下着を履かせて下さい」
指示されて、私と姉は家から持って来た下着を母に履かせた。
何人もの見知らぬ男性の前で。
死んでからも、こんな辱めを受けるなんて…。
警察署のすぐ隣にある病院から医師がやって来て、私たち家族の立会いの下に検死が行われた。
その時に姉が、側にいた警察官から、「俺たちは毎日こんなのを見とるんや」と言われたらしい。
どんな意図でそんなことを言ったのかは分からない。
けれども、そこに横たわっているのが、その警察官の親なり、奥さんなり、子供だったりしても、同じ言葉が言えるのだろうか。
人は死んだら物扱いされる。
これが、母の死から学んだことだ。