敦賀蓮を一言で言い表すとしたら?
「え~、一言なんて無理~っ!チョーかっこよくて~、優しくて~、すっごい素敵!男の理想ってカンジ~っ!!」
「あの甘い声で名前を呼ばれたら溶けちゃいそう!」
「微笑みがいいよね!穏やかでさ~、性格がそのまま出ているよね!」
「芸能界一の紳士って言われているの判る~!ぜんっぜんスキャンダルとか無いもんね!もう、仕事にひたむきに向き合っているっていうのが伝わってくる!」
「そうそう!で、一人の女性を大事にしそう!浮気なんて絶対しないで奥さん一筋になりそう!」
「え~!でも、蓮が誰かのものになるなんて耐えられない~」
「確かに、どんな完璧な人でも無理そう~」
「「「だってあんな素敵な紳士な人世界中探したっていな・・・・」」」
ブチッ!!!
テレビから聞こえてくる不愉快な街角インタビューに耐えきれず思わずリモコンを手に取って番組を替えた。
ったく!世の中の女性の見る目の無さに日本の将来が心配になってくるわ。
何が、甘い声よ、穏やかな微笑みよ、素敵な紳士よ!
そんな男が初心者の女性を夜中散々貪った挙句に
「もうギブアップ?まだ足りないんだけど・・・・。キョーコって意外と体力ないんだね」
なんて言葉をしれっと吐くもんですか!
あの鬼畜紳士!
破廉恥男!!
エロ魔王!!!
ラブミー部の部室。
イライラとしながら、机の上の依頼の資料を手に取りぐぐぐっと・・握りつぶしそうになる。
幼い頃から健康と体力には自信があったキョーコとしては蓮の一言で闘争心にすっかり火がついてしまっていた。
悔しい!悔しい!!悔しい~!!!!
あんな涼しげな顔して~!
今に見てなさいよ~ッ!もうあんな事言わせないんだから!!
取り敢えず、早朝にジョギングのトレーニングを入れて、あとは腹筋と背筋と・・・・
資料を片しながらも、横に置いた体力トレーニング雑誌を見ながらブツブツと予定を立てていると
プルルルルッ
部室に設置してある内線が鳴った。
この部屋の内線が鳴るという事は仕事の連絡という事で、特に深くも考えずに受話器を手に取って返事をして。
聞こえてきた声に目を輝かせた
『・・・・・その声、キョーコ?』
「モー子さん!!」
『・・・ッ!!もーっ!その呼び方やめてって言っているでしょ!!』
電話越しに聞こえてくるのは、同じラブミー部の同志の一人である奏江だった。
キョーコよりも少し早くLMEに所属していた奏江は、いったいどんな経緯があったのかキョーコと同時期にラブミー部に所属となった。
元々俳優部に所属希望だっただけあって、女優としての道をひたすら邁進している日々。
クールビューティの代名詞がそのまま当てはまる様な容姿。
何よりも初めての”友人”といえる奏江にキョーコはすっかり懐いていた。
「どうしたの?部室に直電かけて来るなんて?」
『ちょっと、そこにA4の封筒置いてない?』
え?とその言葉にキョロキョロと周囲を見渡せば、先ほどまで全く気付いていなかった封筒が目についた。
「あ!あったよ?白いLMEのロゴが入っている封筒・・・・」
『ああ、よかった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ねえ、ちょっと悪いんだけど・・・・・』
おそらく言葉と言葉の間が奏江の葛藤の時間だったのだろうが、背に腹は代えられないと思ったのか。
ひどく言いにくそうに、一つのお願いを口にしたのだった。
奏江のお願いというのは、封筒を自分のいるスタジオまでもってきて欲しいという事だった。
封筒の中身は次に受けるオーディションの資料なのだが、すでに奏江は今チョイ役ではあるが秋の特番の撮影に入っていて、その撮影が押していて事務所まで取りにいっている時間が無いらしい。
『事務所の手違いで部室に届いちゃったらしいのよ・・・こっちは撮影終わらないし・・・ちょっと持ってきてくれない?』
「もちろん!モー子さんの頼みなら~ッ!!」
一も二もなく返事をして、封筒をもってキョーコは指定された局のスタジオへと足を踏み入れた。
パスを見せて撮影現場をのぞく。
人々が行き交うまぶしいライトのセットの中、すぐに目的の人物を見つけてホクホクと近寄った。
「モー子さ~ん!」
「ちょ・・・ッ!人前でその呼び方やめてよ。まったく・・・・悪かったわね」
かわいい!モー子さん!!照れてる~ッ!
いつものクールな顔も素敵だけど、こっちもいい!と、キューン・・・としながらも「いいのよ」と笑顔で答えていると、ふと視界に心臓の悪いものが横ぎった。
・・・・・・ま・・・・まさか・・・・・
「はいカット!次シーン59いくよ~。敦賀君は横で待機していて」
「はい」
「げ・・・・・」
一つの撮影シーンが終わったのか、セットから出てきたのは、つい朝まで一緒だった人物。
相変わらずの詐欺っぷりの微笑みで共演女優と話をしているのは間違いようもなく・・・
「……モー子さんんんん~・・・・・つ、敦賀さんと・・・共演なの・・・・?」
「え?ああ、あの人このスペシャルドラマの主演だから」
あっさりとした返事には何も特別な響きが無くてほっと胸をなでおろした。
よかった・・・さっすがモー子さんだわ。その辺の有象無象の女と違ってあの似非紳士に騙されていないみたい。
話している共演女優は目がハートになっている様子に妙に醒めた気持ちになる。
あ~あ・・・騙されてるわ・・・・あの男の本性も知らずに・・・・
「同じ事務所だけど、あの人はもう扱いが別格よ。まあ、演技の面では勉強になるけどね」
「・・・・・・ふ~ん・・・・」
辛口のモー子さんが褒めるなんて・・・・・。
・・・・確かに、演技はすごいのかも・・・・現に今だってこうして周囲を騙して、あんな微笑み向けちゃって・・・
『はい。今日はトリュフにしておいたよ』
昨夜、そう言って自分の口の中にトリュフを放り込まれた記憶がよみがえる。
一体いつの間に用意したのか。
気が付いたら二度目の始まりを意識する前に翻弄され、波にさらわれていて、ぐったりとしていた時に言葉とともに口の中に広がったチョコの味。
・・・・・・朦朧としていたけど、あの時あの人はどんな顔をしていたのかしら・・・笑っていた気がするけど・・・少なくともあんな微笑みを向けてはくれていなかった。きっといつもの意地悪な笑みだったに違いないわ。
そんな事を考えながら観察をしていると、蓮が今気付きましたという様子でこちらを見て・・・・なぜか向かってきたギクリとした。
来なくていいのに!
「あれ?最上さん?どうしたの、こんな所に」
「・・・・・・・・・・こんにちは。敦賀さん。ちょっと、お届けものを届けに。」
そう言うと封筒と奏江を見比べて「そうなんだ」とだけ言われた。
あくまで「同じ事務所の顔見知り」というその様子にいっそ関心してしまう
「最上さん」・・・・・ね
「キョーコって呼んでいい?」
そう聞かれたのは昨夜のベットの中だ。
しかも状況としては、かなりとんでもない状況で。
「最上さん。・・・・じゃあ盛り上がらないだろ?」
よく判らなかったけど、どうでも良かったから首を縦に振って
少しだけ後悔した。
このサド男・・・・・・っ!
思わず思い出してしまい、振り切る様に奏江と話している蓮をコッソリ睨み付ける。
視線に気付いたのか蓮が何?と涼しげな顔を向けて来るのさえ、余裕を感じてしまいイラッとする。
駄目だわ。昨夜の昼間でいろいろと精神的衛生上良くないわ。
さっさと立ち去ろう。
「じゃあ、モー子さん。私戻るわね。また明日ね」
「ええ、明日は今日の撮影次第では遅れるかもしないから」
「そうなんだ・・・・うん、わかった!頑張ってね!」
寂しい気持ちを抑えつつ笑顔でそう言って、そそくさと去ろうとしたのに
「待って、最上さん。この後時間あるなら待っててくれないか?この間話したラブミー部への依頼の件で話があるんだ。」
爽やかな笑顔の先輩の言葉に、全くの正反対の顔で後輩はピシリと固まってしまうのだった。
後ワンシーンだからという蓮をしぶしぶ待って、一緒に車で事務所に向かう。
社さんは?と聞けば用事で、一足先に戻っていて事務所合流らしい。
つまり二人きりの車内
昨夜言えば良かったじゃない。何で今更、というか、どういう態度でいればいいのやら・・・と思考をぐるぐるさせて黙り込んでいたキョーコに口を開いたのは蓮が先だった。
「笑えるんだね」
は?
唐突な言葉に一瞬意味が判らなくてポカンとした。
笑う?
さっきモー子さんに笑いかけていた事?
・・・・・・・って、そりゃあ
「そりゃあ、、人間ですので」
人並みの喜怒哀楽は持ち合わせているつもりですが?
呆れてそう言うと
「俺は見た事なかったんだけど」
運転で視線は前を向いたままの蓮に、そういう意味か、とジト目になる。
だって、そりゃあ
「・・・・・笑顔をお見せする様な機会に恵まれなかったので」
特にあなたには
「俺が見た事があるのは泣いた顔と怒った顔とイッた顔だけだ」
「!!!!!」
大袈裟に溜め息をつかれながら、ワザとらしく「先輩に対して嘆かわしいね」という蓮に言葉も無くわなわなと顔を赤くする事しか出来ない。
そんなキョーコの反応に満足する様にニッコリと笑みを向けられる。
な、なにかしら、無駄にキラキラプスプスと痛いんだけど!
何この詐欺笑顔を通り越しての似非紳士笑顔は!!
「笑ってみて?」
「絶対嫌です!!」
くわっと力強い宣言が車内に響くのだった。
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