生まれ変わろうと決めた
あんな惨めな想いはもうたくさん
心乱されるのはもう嫌
恋なんて百害あって一利もなかった
あんなもの破滅と滅亡の入口よ
だから破滅して滅亡して
新しい扉を潜るの
大手芸能事務所 LME
業界の中でアカトキと二分してトップを誇るこの事務所で最も有名なのは
変わり者と称される「社長」と
世の中の女性を虜にしている「看板俳優」だった。
「おーいラブミー部!この書類俳優部に持って行ってくれ~ッ!」
「はーい!ただいまー!」
パタパタと走り寄るどぎついピンクの塊。
いや、全身ピンクのつなぎを着た少女に、多少見慣れて来たとはいえ、走り寄られた社員・・・・LMEタレント部部長の椹は思わず身を引いた。
「あ・・・・ああ・・どうだ最上君、仕事には多少慣れたか・・・?」
「はい!おかげさまで色々な経験をさせてもらっています!」
ニコニコと笑う少女は、始めて自分に詰め寄ってきた鬼の様な形相など全く感じさせず、椹は内心ホッと胸をなでおろした。
1ヶ月前、オーディション不合格となりながらも、詰め寄り、すがり、ぶら下がり、絡みつき?、結局根負けして受け入れたのが、変わり者と名高い社長が新設した「ラブミー部」
現在3名しかいないこの部を、社長は色々能書きを垂れていたがいわば「芸能人予備軍」みたいなものだと認識している。
ついでに言うと、社内では「また社長のお遊びが始った・・」という程度の認識の部だ。
とはいえ、浅からぬ縁を持ってしまったこの最上キョーコという少女を椹は気に留めていた。
色々パッとしない子だし、特に人を惹きつけるオーラがある訳ではない上に、芸能人になりたいという理由がまた普通とは違う理由だったが、何か気になる存在ではあったのだ。
特に、ここ1ヶ月ぐらいなんか雰囲気が変わったよな・・・
「何かいいことでもあったのか?」
「はい?」
思わず聞いてしまった質問の意図が判らなく、はてなマークを飛ばすキョーコに椹は悪気なく笑いかけた
「いや、始めて会った時よりも何ていうか・・可愛くなっているから、恋でもしているのかと・・」
バキッ
皆まで言うことは出来なかった。
手に持っていたボールペンをへし折り、ふしゅ~・・・・と何か瘴気が出ていうのでは?というキョーコに思わずギョッとした。
「も・・・もがみく・・・」
「恋?恋と言いましたか?いま?あんな非生産的な非効率の愚かしい単語を私に向けました?」
「い・・・いやッ!何も言っていない!!いっていない!!」
生存は人間の本能。
慌てて首を振って自分の発言を全力で否定した
「そうですよね。あんなこの世で最も不必要で無意味な思想とは無縁で生きている私に何を言うんですか~」
「う・・・うん・・・」
ケラケラと笑うキョーコに、青い顔をしてかろうじてうなずく事しかできなかった。
では、失礼します!と去っていくキョーコを見送って、椹はやっと息を降ろした。
「やれやれ・・・せめて、あの恋愛に対する過敏症さえ何とかなったらな~・・・」
LMEの社長のモットーは「愛」
芸能人に不可欠なものは「愛し愛される心」
それをいつも間近で聴いているだけに、キョーコの様な若い子があの年で愛を拒絶しているのがどうしても勿体無く思えて仕方なかった。
「ラブミー部?」
「あれ?お前知らないの?まあ最近事務所に顔を出していなかったもんな~。社長が鶴の一声で新設した部だよ。まあ、言ってみればデビュー前の見習いみたいな感じ・・・・なのかな?」
「・・・・・・社長が?」
「まあ、あの社長がってとこでもう、妙な想像しちゃうだろ?なんでも名目上は”愛し愛される心を作るための部だ!”って宣言していてさ。」
「なんですか、それ・・・」
「愛が大好物の社長らしいだろ?単なる研修生とは違うんだよ。まずユニフォームが面白くてさ。一度見たら忘れられないというか・・・」
「はあ・・・・わざわざユニフォームまで作ったんですか・・・」
「そうそう、すっごいんだよ・・・・っと噂をすれば・・・おーい!キョーコちゃーん!!」
「・・・・・・・・え・・・・」
俳優部へ書類を届けに行く途中で呼ばれた名前に振り返った。
所属して一ヶ月。
各部署間を行き来しているおかげで大分顔見知りは増えた・・・と思う。
振り返った先には、先日雑用を手伝った・・・確か、社さんというマネージャーさんと・・・もうひとり・・・
誰だっけ?
どこかで見た事があるような・・・・
「おはようございます。社さん・・・」
「うん、先日は手伝ってくれてありがとう」
近寄ってお辞儀をすると人のいい笑顔を向けてくれる。
先日も仕事をしながら色々教えて頂いて、いい人だなと思っていた
そういえば、社さん誰のマネージャーをしているんだったかしら・・・聞いた様な聞き流した様な・・・一緒にいるって事はこの人が・・・・?
気がつけばぶしつけにじー・・・と、もう一人の男をガン見していて、相手の男性もじっ・・・と自分を見ていた視線とぶつかった。
ドキリ
な・・・・なんだろう・・・・・?
その瞳の奥の光を知っている気がした
「あ・・・・キョーコちゃん、初対面だよね?蓮、この子がさっき話していたラブミー部の最上キョーコちゃん」
場をとりもつ社さんの言葉に、自分の中の記憶をたぐる。
・・・・・・・蓮?
蓮って・・・・LMEの蓮って・・・・まさか・・・・
「あーッ!敦賀蓮!!??」
急に大声を出したキョーコに、社と蓮がビクリとする。
社としては、まさか蓮の事を知らない女性がこの日本にいるとは思わず敢えて紹介をしなかったのだが・・・
な、なんだろう・・・蓮を見るキョーコちゃんの表情・・・普通の女性は目をハートにさせるか、顔を赤らめるのが常なのに・・・
ジロジロと蓮を見るキョーコの視線に、そういった乙女的な反応が見られないのは流石ラブミー部という事なんだろうか。
一方キョーコは目の前の男を改めて見あげていた。
そうだわ・・・敦賀蓮・・・あのバカ男がよく張り合っていたっけ・・・。
テレビに出るたんびに悪態ついて・・・今思えば無駄なフォローをしてやったんだったわ。
思わず嫌な記憶を思い起こしてしまい、イラッとくるが慌てて邪念を振り払う。
確か「抱かれたい男NO1」だっけ?
ふーん・・・確かに美形よね。
身長も高いし・・・一体いくつあるのかしら・・・
ふと、1ヶ月前に会った男を思い起こす
確かこれぐらいの目線だったと
服の上からでも想像出来る引き締まった身体
頭部と全身の対比、上半身と下半身の対比、肩からひじひじから手首にかけての対比、大腿部と下腿部の対比・・・・
全て見たからこそ記憶している各パーツの筋肉の付き具合
骨組み
身体のライン
上腕二頭筋大胸筋外腹斜筋広背筋上腕骨髄・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ??
パチパチと瞬きしてもう一度よく見る
・・・・・・・・・・う・・・・そ・・・・・・よね・・・・?
世の中に同じ人が3人いるという噂は、骨や肉付きや、パーツや対比まで同じなんでしょうか
段々と目に見えて青ざめていくキョーコを興味深そうに見ていた蓮は、一瞬二ヤッと笑った気がした。
本当に気がしただけだったら、どんなに良かっただろう
思わずくらり・・・・と目眩がした。
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