2日目の朝 快晴
足の甲もなんだかすっかり良くなっている
夜中の3時頃トイレに行くとき
空がやけにまぶしくて
ふと上を見たら
私の眉の右上に
北斗七星があった
上ではなく眉のところなのだ
「ちか! 北斗七星チカ!!」
標高1600mなのだが
そしてまぶしく山に隠れる光るものは
トイレからの帰りに三日月だとわかった
「まぶしっ!三日月まぶしいいいい!」
それはまるで空に輝くダイヤモンドだった
雨に洗われ澄んだ空に
空の宝石がちりばめられていた
私の思い出の宝箱にまたコレクションが増えた
さぁ朝ご飯のおにぎりアルファ米を食べて出発だ
アルファ米は何度食べてもまずい
雑炊系のものしか口に合わないので
次からはパスタと雑炊にしよう
ひとまとめにしていた濡れたもろもろの中から
ずぶ濡れの帽子を引っ張り出す
「しまったテント内で干しておくべきだった」
帽子の中まで全部がビシャビシャ💧
観光センターに預けた温泉セットに
替えの帽子は入れてありこれしかない
しぼれるだけギュっと絞り
カラビナでアタックザックに付ける
早朝は日も差さないししばらくは樹林帯だ
そのうち乾くでしょう
さぁ、ここまで来たら涸沢カールに行っちゃうよ!
7月31日 6時14分スタート
前日に急遽行くことを決定したので
熊鈴がない
3か所程度に熊目撃情報があり
岳沢小屋は閉鎖となったらしい
出くわさないかキョロキョロしながら進む
しかし前日の雨に洗われた山の美しさはどうだろうか
清い空気に包まれて
この世の穢れからほど遠いところにある空間という感じ
初めて見る3000m級の山々に
言葉が出ない
尊い
そんなイメージだ
なんて素晴らしい空間にいるのだろう
目まで洗われた気分で進む
まだ横尾までは割と横移動といった道なので
ささっと横尾に着いた
最初はここでテント泊する予定だった
徳沢と比べるとコンパクトに見える
調理用スペースなどはないが
山屋にとっては騒ぐ学生団体もおらず快適だと思う
カレンダーの一枚のような絶景に
しばしうっとり
そびえる峰々の美しさよ
ここからは本格的な道となり
観光客は行けない
といっても横尾まで来れる観光客はいないだろうが
ここまでバスターミナルから10キロ離れている
売店のお兄さんにジュースを買いながら軽く聞いた
「ここから涸沢まで2時間くらいですかねぇ」
「通常だと3時間です」
と彼はニコリともせず
きっぱりとした口調で返した
ということは私の足では4時間弱みておいたほうがよいことになる
あわてて追加でパンとチップスターも購入して覚悟を決めた
横尾山荘 8時出発
横尾の山小屋にむかい行ってきますと心で言い
6キロの道のりをスタートする
動画で何度も何度も見た道のりは
わたしでも行けると信じて疑わない
皆さんは重いザックで上まで行くのだから
軽いアタックザックの私だったら
すいすいと行けるはず
屏風岩
ここであまりの絶景に足が止まる
なんというか
山は生きている
本能でダイレクトにそう伝わった
息遣いが聞こえるような
山の表情にしばし見惚れて
惚れ惚れとして見つめ立っていた
前からくるご婦人もそんな感じで見惚れつつ向かってくる
2人してどう表現して良いかわからないけど
とにかく惹きつけられて目が離せないですよね
という内容の感嘆系単語をやり取りした
人生を送っていて
この景色を見ないのは大変もったいない
命あるものとしてこのおおもとの何か
源とでもいうか
命の始まりというか
見たら多分それがわかる
山と同じ原子や分子で自分も出来ているって
花も山道のほうを向いて
語りかけている
「ありがとうね、がんばるよ」って話しかける
うつむきかげんでカールする花びらの表情は
なんて可憐なのだろうか
雪解け水が流れる川で
強い日差しを受け火照った体を冷やそうと
河原で思い思いに休む人たちに加わる
川に手を付けると
氷水のように冷たすぎて痛いくらいだ
手ぬぐいを水に浸してしぼり首にあてた
すぐに全身がクールダウンする
ここからが本格的な山登りだ
横尾で買ったパンを食べる
それから少し歩いてあまりのキツさに地図を開いた
開いてからとても後悔した
これからが本番の急登の始まりだったのだ
先のトンガリ方がおかしいネと
ひきつって笑う
ふと前方斜め遠くに、カールらしき風景を見つけた
あの場所が目的地ならば今の私には到底無理だと思った
YAMAPで確認すると逆側の左の峯の向こうがカールらしい
ほっと安心して、見えてはいないけど
あの山の向こう側なら行けそうだと少し元気が出た
あっココは動画でよく見る場所
”止まらず進め!”のロゴ風な地点やーんと
ニヤニヤしながら左上を見上げたら
にやけが止まった
本当に今にも落ちてきそうな岩がゴロゴロしていて
なかば青くなりつつ急いで通過😅
歩いているとデッカイ声でさえずる鳥が間近にいた
なにかしら私にずっとしゃべっている
可愛いなぁ。。どうして鳥好きってわかるの?
何かを伝えるかのように一生懸命鳴いている
「そのままよ~ そのままそこにいてね~」と
シャッターを切る
励ましてくれているのか
隣の木に止まりなおしてまた鳴く
「うんうんありがと、頑張れって言ってるんだね」
そういえばさっきも見たことがない
美しくて大きな蝶が私の前に飛んできて
スッと足元の岩に止まったなぁ
花や鳥、そして蝶
花札か! ってくらいところどころにエッセンスがちりばめられる
花鳥風月
熊本の老舗お菓子屋さんかーい
お菓子の香梅の陣太鼓オススメ💗
ほぼ止まっては休憩しながらようやくこの標識に辿り着く
見た時の嬉しさといったらもう
疲れてるから心の中で飛び上がった
だがここからが本当に辛い
見えていて遠い
最後の急登を歯を食いしばって登る
酸素か? 酸素が明らかに薄い
そういえばテント場で頭痛がひどかった
涸沢カール 11時47分着
涸沢のオアシスに到着
売店のおねーさんが天女に見えた瞬間である
全く食欲はないがカレーを注文
そのあとに飲むつもりはなかったのに
生を頼む 涸沢唐揚げと一緒に
達成感より座れる嬉しさが勝つ
まわりの景色はもうどこを見ても絶景なので
いまさらキャーという感じではなくなっている
が、方向を間違えていた
こっち!
槍ヶ岳はこっちなのだ!
なんというスケールの美しさ✨
雪
この暑い夏に雪があんなに残っている
パノラマで撮ってみる
いやおかしいだろあのトンガリ!
槍ヶ岳に登ろうとすんのがおかしいって
とアルプスいちまんじゃくを口ずさみ
ビールを飲む
一人で来たよ
来ちゃったよ
いつもなら必ず日陰に座るけど
日焼けがなんだ
と特等席に座って唐揚げを食べる
私の胃がゆで卵くらいになっている
気圧か!? 気圧できっと胃が押されて縮んでいるに違いない
胸が一杯ってこういうことなのかな
カレーだけは必死にビールで押し込んで
唐揚げは1個残す
山荘のほうで涸沢Tや手ぬぐい熊鈴を購入して
団体さんも多くなってきたし下山しよう
13時7分 下山開始
さっきの涸沢標識までの下りでは
やはりヨレヨレになった人らが私に聞く
「もうすぐですかね?」
「もうあと少しでしょうか?」
私が登る時に優しくおじさまたちに励まされたように
また私も励ます
「ここから最後あと少し頑張れば着きますよ」
17時 徳沢着 18キロ歩く
3日目につづく