これは私の妄想物語


ごめんよ。
今日はわざわざ付き合って貰って。

俺はキミを映画に誘って
とても楽しい時間を
過ごしたんだ。



同じ場面で笑って

同じ場面で怖がって

同じ場面で切なくなった。

俺たちは同じ時間を共有して

同じ閑な時間に漂った。







劇場に入る前から

俺たちは別の人物を演じた。

誰から見ても

とても仲の良い恋人同士。


ふたり分の馬に飲ませるような飲み物と

ホントのバケツに入った

定番のポップコーン。


『こんなに食べれんのか?』

『これがなきゃ映画に来た感がないだろ?』


キミより背の高い俺がそれを持ち

キミのすぐ後ろを歩く。

キミは二人分のチケットを入口で渡して

少し楽しげなスキップを踏んだ。


『前から観に来たかったんだ』

キミは俺にそういうと

とてつもなく可愛い笑顔で

振り返った。


キミは知ってる?

その時の俺が

ちょっとドキドキしたのを……

嘘だろ!って思うほど

この俺が

キミのその柔らかい髪に

どれほど触りたいと思ったか。


事前に予約してキミのために取った

シートは特別席で

座り心地は最高だった。


ほんの僅かな距離の俺とキミ。

手を伸ばせば

キミの手が触れる距離。

その細い指を意識した。




劇場の明かりが落とされて

キミのワクワクと

俺のドキドキと

別の意味で心臓が

リンクする。



映画はホラーコメディで

笑いながら震え上がる。

摩訶不思議な空間に

俺たちは取り込まれた。


『…!!』

ホラーはホラー

キミは時折その細い肩をビクつかせた。

俺はそっと手を伸ばし

キミの心に触れるように

そっとその手に手を重ねた。





その瞬間キミは

俺の手から逃れて

唇を噛んだんだ。


俺は見逃さなかった……




『ごめん……

ちょっと、、』



ちょっと、、なに?


『……倖箭、、僕らは友達で』


改めて言わないでよ。

そんな事はわかっている。

キミの真心はここになくて

別にあるってことぐらい



ねぇ、知ってる。俺の名前


『倖』の字は

ひとりの幸せが

向かいっ側の人の

幸せともリンクするってこと。


複数の幸せに

互いに心が暖かくなる

そんな意味なんだよ。


キミは本当の俺の気持ちを知らない。

だから気にしないで。

俺を愛せなくても

好きではいてくれる。

そうなんだろ?



『やっぱり馨爾も誘って来れば良かった』


『そうだね。でもあいつは

キミより植物が大事だ』


俺はわざと毒を吐く。

そうだよ、、あいつの心の奥には

中々俺たちは潜り込めない。

辛うじてキミの方が優位だ。


俺たちはシーソーゲームを

している。


入り乱れ絡み合う。

複雑に絡んでしまった鎖を

解くのは

そう簡単ではないんだよ。


ごめんよ、、

俺が悪いわけじゃないけど。



不思議な均衡を保ちながら

どちらにも偏らない。

なんだか最近はこんな不安定な

宙に浮いてしまった

ふわふわな状態が

俺は心地よい。


彼が中心で

偏りのない俺たちの関係。

これはキミには伝えない。


俺はキミが好きで

彼を愛している。


その気持ちは

キミに伝えない。


キミは勘違いしたままでいいんだよ。


ごめんよ、、俺が悪いわけではないけど






俺の名前の『倖』


幸せの向こう側は

やっぱり幸せ……

それでいいんじゃないかな?





本日もお立ち寄り

ありがとうございます