これは私の妄想物語


暑かった夏も過ぎ、
街路樹の銀杏も少しずつ
色づき始めた。
この町は小さな田舎町だが
大学もあるので、若者も多く
程々に静かで程々に活気もある。
道が先に整備されたということもあり、
田舎にしては
道自体が広く碁盤の目のように
整備された綺麗な町である。

坂の多い山肌ギリギリまで民家のある
倖箭の故郷とは違い
平野独特の遥か彼方まで
田畑の広がる光景は
倖箭のお気に入りでもあった。
大学通りに面したログハウス風の喫茶店。
倖箭はそこでコーヒーを飲みながら
紫光を待っていた。

窓際に座って
紫光の車が駐車場に入ってくるのを待つ。
程なくして倖箭の赤い外車の隣に
黒いスポーツカーが静かに止まった。
降りてきた男は細身で背が高く
格別に横顔が美しい。
倖箭はこの男の彼を見る冷ややかな
眼差しも好きだった。



仁龍会にいた頃はいつも黒づくめ

だったが、今は仕事柄

カジュアルなモノも多く、

その姿も新鮮だった。


店に入って倖箭の席に座ると

軽く会釈をした。

「久しぶりだな。元気だったか?」


「ああ……」

満面の笑みの倖箭に対して

随分素っ気ない。

機嫌が悪い訳ではなく

照れ屋の彼らしい対応である。


「一年ぶりだぞ!

寂しかったとか言えないのかね?」


「……」


「紫光〜俺は寂しかったぞ!」


「電話では話してるだろ。

それで充分だ」


「相変わらずだな、お前。

つれねぇな」


「じゃあなんというんだ?

ほぼ毎日のように電話してきて

一年なんて感覚はないぞ!

お前、草臥れてるんじゃなかったのか?

子育てで忙しくて。」


「…人聞きの悪い!

俺の子じゃねぇぞ。

それにもうすぐティーンエイジャーだ。

でかくなったら、

口も立つから可愛く無くなった」」


初めて紫光が鼻の上にシワを寄せて

ふふっと小さく笑った。

「わざわざここまで

出向いてくるっていうのは

愚痴を言いに来たわけじゃねぇだろ?

…何の用だ?」


運ばれてきたコーヒーをブラックのまま

ひとくち啜るとニコリともせずに

冷たい視線を倖箭の顔に這わせた。


「おお〜っゾクゾクするね。

その目付き。

夢にまで見た紫光ちゃんだよ。

そう来なくっちゃ!」

倖箭がニヤニヤ笑った。


「……変態!」


「うん。変態ついでに

そろそろ考えちゃあくれねぇか?

俺んとこ来いよ!

いいぞ〜龍族は。年は取らねぇし、

小うるさい先代龍王が

居なくなったから

めちゃくちゃ自由でみんな楽しそうだ。

それに、、お前の大好きな馨爾もいるぞ!

まぁな、新龍王になる

アイツらチビは少々

今は手こずる存在だが、、

伊達に賢い訳じゃなく

本当に頭が良すぎて

悪知恵が働きすぎる。

先代が選んだだけあるわ……。

なぁ、頼むよ!

俺も駕洛も手を焼いてるんだ。

、、なっ……お前なら」


「、、と言うことは龍族になれって

俺に言ってんのか?」

紫光の顔が近づいて小声になった。

倖箭は思わず近づいて来た彼の顔に

うっとりして大きく頷いた。


なんでこんな町外れまで来て

話さなければならないか。

ただの四方山話なら

『BAR忍』で十分だった。

だが事『龍族』に関しては

吟戀や芳楼達には聞かせられない。


碧空を亡くし、馨爾は

生きる意味が無くなった。

まるで我が命を

ボロ屑のように

捨ててしまったが

先代の龍王は馨爾の能力が惜しくて

龍族に召喚した。

その前にちゃっかり

碧空も転生させていて

馨爾が断り切れないエサも

用意していた。


「だがな、、いくら請われても

俺はダメだ。

馨爾さんもいない。

俺までこの世から居なくなったら…

せっかく立ち上げて

馨爾さんから預かった

『龍崎組』はどうなる?

頭目や若が……。

それに探偵事務所は結構面白い」


倖箭は顎に指を添えて

少し考え込む。

その姿はまるで貴族で

育ちの良さがそのまま滲み出る。

紫光は時に見せる

彼のその憂いのある雰囲気が

実は好みなのである。だが

口が裂けても言えない。





「確かにな、、訪れる不慮の死だけ

その際に選ばれて龍族に転生する。

のがセオリーだが、、

俺はなんだ?黄龍だよ。」


「知ってる…お前から打ち明けられた時

正直コイツは相当にボケてるか

妄想癖があるんだと思った。

ただ馨爾が龍族に転生して

碧空と二人で俺の前に現れた時

それが事実だと信じるしかなかった」


「だよな。だから俺は黄龍で

龍族の中でも別の、、

平たく言えば覚醒だよ。

代々受け継ぐ血筋だが

俺の伴侶となる者も

俺と同じ生き方ができるんだ。

要は生きたまま転生。

他の物よりはるかに寿命は長いが…

時間の使い方が普通の人間と違うだけ」


紫光は嫌な予感がした。

「伴侶…ねぇ」


「そう!!伴侶、、所謂番だ。

番となる者は、別に女でなければ

ならないという事はない。

子孫を持てない龍族の中で、

黄龍の血筋だけが

それを許されている。

いわば龍族の中の特権階級だ。

男でも跡継ぎだって孕む事は出来る。

人工の子宮を埋め込む手術は必要だが

まぁ出産は、、腹をかっ捌けば良い訳で。

だから…なァ紫光。

無論、急いで妊娠する必要はないぞ!

じっくり俺との新婚生活を楽しんで。

子育てが心配なら

新龍王ふたりを実際愛でながら

勉強すればいいし。

子沢山も夢じゃない🎶」


「嫌だ!!」


「まぁそう言わずに、よく考えて!」


「嫌だ!!!!

よく考えても、、、絶対嫌だ!!」


手に余る時期新龍王の面倒を

押し付け、あわよくば

自分の世話までして貰いたい気

満々が見え隠れする。

それに何より……

両手に1人ずつ、腹の中に1人。

紫光はマタニティを着て

子供に囲まれた自分を

想像するだけで身震いするのだった。



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ありがとうございます