別棟の温泉施設から羚が戻ると
広いリビングで倖箭は
ロックグラスを傾け窓辺に腰掛けて
ぼんやり敷地のライトアップされた
庭を眺めていた。
ふっとその横顔が
どこか寂しげに見える。
馨爾や羚に見せる強気で自信満々な
その表情とはどこかかけ離れていた。
(無駄にイケメンだな。
男三人でホテルに泊まって
何が楽しいんだ?)
倖箭の視線と羚のそれがかち合った。
「馨爾くんは?」
「あいつは長風呂です。
目いっぱい温泉楽しんでますよ。」
「キミは?
カラスの行水?」
そう言うとまたいつものように
にやりと笑った。
(なんか毒があるな、、いちいち)
「付き合わないか?
そこのカウンターにボトルがある。」
「ロックですか?」
「ああ」
(あ〜どこまでカッコつけてやがる!)
小憎らしいと思いながら
なんでこんなに気になるのか?
自分と同じルーツを持つ半異国人。
倖箭は窓ぎわの席を開けて
自分の隣りをポンポンと叩いた。
ここは座れという意味か?
羚は倖箭と同じロックグラスに
ウイスキーを注いで
彼の隣りに挑むように座った。
実はロックは苦手だ。
だが妙な敵対心が心に芽生えた。
グラスを仰ぐと
胃の腑が一瞬にして焼け付いて
吐息まで火を吐くようだった。
「無理しない方がいいぞ。
胃をやられる。
特に風呂上がりは酒が回りやすい。
ゆっくり嗜みながら……
そう可愛い子は
じっくり落とすのがいいんだ」
「落としたいんですか?」
冗談で言ったつもりだった。
だが……
「誰?……ふっ
馨爾くんか。
……そうだね。あの子は可愛い。
素直すぎて幼いがね。
専門バカって奴かな?
ほっとけない。
能力の高さと性格はイコールじゃない」
(そんなことは知ってる。
だからいいんじゃないか!
アイツはずっと変わらない。
子供の頃から真っ直ぐで
いつも俺が庇ってやらないと
よく近所の悪ガキにも虐められた。
買ってもらったばかりの三輪車を
悪ガキに乗ってかれた。
それをポケ〜っと見てたのも馨爾だ。
馨爾の母さんから叱られて
言い訳してやったのも俺。
鳩にも追っかけられた。
それも追っ払った。
全部俺が……)
ふと思い出して、羚は思わず
思い出し笑いをした。
「羚くん。」
「えっ?」
倖箭が初めて「くん」と呼んだ。
彼がじっと顔を見つめてくる。
「キミは、、訥弁だな。」
「と、、とつべ、、ん?」
「思った事は口に出さないと
何も始まらないぞ。
恋には能弁が勝利する。
黙っててわかるだろ?はないんだ。
特に……
馨爾くんみたいに
鈍感な子にはね。
グズグズしてるとトンビに油揚
さらわれるぞ!」
倖箭はそう言って
可笑しそうに笑うと
グラスの中身を
一気に飲み干すのだった。
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