これは私の妄想物語


この物語に出てくる新人さん


倖箭が初めて短編集で

羚と関わったお話です。

まだお迎え前だったので

倖箭はこんな雰囲気かな〜と

思いながら架空の物語を書きました。




さてその後の三人の関係を

ちょっと知りたくなりました。


こちらの物語の設定では

ハンサムな彼 倖箭は

馨爾とは互いの父が友人同士。

その関係から大人になってからの知り合い。

反対に(この物語では本来の設定 

白瀬羚とは別人)

静馬羚は幼少期からの友達。

好奇心旺盛な馨爾は

どこかミステリアスで大人の風格の

倖箭に、心惹かれている風で

羚は気が気ではありません。

秋桜の花咲く丘の別荘から戻って半年。

あの後馨爾を見送った空港で

近いうちの再会を約束した羚は

満を持してようやく彼に会うべくして

上海を後にしたのでした。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



羚は久しぶりに日本へ戻った。

亡くなった父の遺骨は

この土地と上海とに分骨されている。

その実家の墓を閉じることになったと

叔父から連絡を貰い

羚は那賀崎の地に降り立った。


『済まなかったな、羚。

親父の我儘でお前の父さんの半分を

こっちに置いたままにしていて。

だがじいさんも居なくなって

私らももうずっと東都で

親戚も知り合いもなくなったこの土地に

毎回墓参へ来る訳には行かない。

ようやく墓じまい出来ることになって

正直肩の荷が降りた気がしているんだよ』


叔父は別れ際にそう言った。

ここへ来る理由が無くなった事が、

羚には少し寂しくも思えた。

ここから伯方に住む馨爾の所へ行くのも

これで最後になるのか?


(父さんは上海の母さんと本当の意味で

一緒になれるから嬉しい?)

手の中のちいさな骨壷の父に

羚は心の中で問いかけた。



馨爾と待ち合わせしていた

この街の古くからある洋食屋。

家族でよくランチに出かけた。

いつも隣家の馨爾に声をかけて

連れ出したものだった。


そこも代替わりしたが、

羚が里帰りすれば

馨爾は必ず羚に会いに来てくれた。


今回も……






窓際に席を取り、しばらくすると

彼の姿が窓の外に見えた。

羚を見つけると

笑顔が零れて眩しかった。



スラリと背の高い彼に

淡いサックスのコートが

とてもよく似合っている。

案の定店へ入ってきた彼に

女店員は見蕩れていた。



「元気そうだ」


「ああ。用事は済んだのか?

親父さんいよいよ連れて帰れるな。

いつ帰るんだ?」


「一週間はいられる。

お前ん家、泊めてくれよな。

大学は春休みだろ。

どうだ、久しぶりに鋸乃島にでも

釣りに行かないか?」



「一週間も羚と一緒か〜」


馨爾が口を尖らせた。


「嫌なのか?」


「いや……布団がねぇよ」


「……お前のベッドでいい」


馨爾は鼻で笑って

「蹴落とされても知らねぇぞ」

と言うのだった。



昼時と重なり、洋食屋は混み始めていた。

平日のその時間はビジネスマンの姿も多い。

ふっと窓際の外からこちらを覗いている

人物と羚は目が合った。


その人物に気づいて、馨爾が手を挙げると

彼の姿が一瞬にして

華やいだ気がした。


「なんであいつ、、、」


「俺が呼んだんだ。

ゆきさんの会社、ここから近いし。

ほらっ!社長ともなれば

何かと忙しいだろ?

今日は珍しくアポ入ってないんだって。

羚も来るから一緒に

ランチしませんか?って」

馨爾が悪気もなく

そう答えた。


「あいつとは連絡を取り合っているのか?」


「あ、、アイツって笑

そんな顔すんな。

深く付き合えばいい人だよ、ゆきさん」


(俺はどんな顔してる?)



「……深く付き合う?

今も付き合いがあるのか?」


「うん。そりゃね、あるさ。

親父同士が仲いいんだから。

親戚みたいなもん……

でね、文芸社の上の人紹介された。

新刊の子供向け植物図鑑の監修。

この間、東都まで行ってきた」


「そうか……」


(俺の援助が無くなってもやって行けると

言ったのはそういう意味か?)


大学の研究費だけでは

やりたい自由な活動は出来ない。

馨爾は『自分だけの植物』を探しに

世界中を歩きたい『植物バカ』

そのためには金がいる。

そんな彼の『潤沢な懐』になるために

羚は仕事を頑張ってきた。

父の跡を継いで兄とふたり

伯父の協力も得て

上海で事業を拡大して行った。

馨爾が居たから。

互いの居場所の距離は離れても

心の距離は離さない。

馨爾の関心が自分から薄れない為に


(俺は彼を金で縛った。

そんな馨爾を横からいとも簡単に

かっさらって行くのか?この男は!




「やぁ!!」




憎ったらしいほどの美丈夫が

そこに立っていた。

爽やかで甘い笑顔。

人の目を引く褐色の肌。

気にならないほどの柔らかで

澄んだシトラス系の香りを纏い

堂々とした体躯に

そこはかとない色香を漂わせて。

どんな女も、、また男も

彼の不思議な魅力に魅了される。


向かい合って座っていた羚と馨爾。

その馨爾の横に

躊躇いもなく当たり前のように

倖箭は座った。


ムッとした表情のまま

「天下の入江不動産のお社長さんが

こんなチンケな洋食屋でお昼ですか?」

精一杯の嫌味を言うのが

やっとの羚。


「そぉ〜?いいんじゃない?レトロで。

俺は好きだけど…

ところで何がオススメ?馨爾くん」


倖箭にはあっさりいなされた。


(馨爾くん?!

なんだ、その媚の売り方)


倖箭は明らかにニヤリと笑って

「おやっ…幼馴染さんは

お気に召さない?

俺と馨爾くんの仲」

彼の物言いは非常にストレートで、

羚の神経を逆撫でした。


「…っ

ど、、どういう?仲??

それに、いい加減やめませんか!

幼馴染さんって呼び方💦」


「どういうって?

まぁ仲良しかなぁ〜笑

そうでしたね〜。

じゃ、やめましょ、羚さん。

ところで蒼龍公司の副社長さんこそ

こんな所で油を売ってても大丈夫?」


(喧嘩売ってんのか?コイツ!)


「あはは…個人的な所用ですから」

羚の笑顔が奇妙に強ばる。


「ほぉ〜それはまた。

ではとんぼ返り?

お忙しいですね。」


(とんぼ返りなんか一言も言ってねぇぞ!

そこで勝手に完結すんな!)

羚の顔色がますます悪くなった。


「墓じまいなんだよ。羚

分骨されてたお父さんの遺骨を上海へ

持っていくんだ。

一週間、伯方の俺ん家に泊まるんですよ。

久々のオフだし、俺も春休みだから

釣りでも行こうかって話してたの」

馨爾がその場をとりなした。

このままで行くと

冷たい戦争が起きそうだった。


倖箭の目がさらにキラキラと光った。

嫌な予感がすると羚は思った。

馨爾は余計な事を…


「それはいい!

釣りね!それは楽しそう。

じゃ、うちの船で一緒に行かない?

西浜港に停泊させてるんだけど。

釣りをしながら

伯方まで送ってってあげるよ。

どう?楽しいクルーズになりそうだね」


倖箭は嬉しそうにそう言うと

話がひとりで完結しているようだった。



※地名は全て架空です。


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