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「何がおかしいんだよ。」
琉樹の髪をブラシで梳いて
整える。
猫っ毛の長い髪はもつれやすく
琉樹は私以外の人間には
髪を触らせなかった。
「小さい頃を思い出して…」
「いつの頃だ?」
「10歳?いや、もっと小さかったか。
母さんのドレッサーでイタズラして
私と喧嘩になってお前が泣き出した」
「ああ…お前の親父さんの写真を
見つけた時な。
結局あれはわからずじまいか?」
「そうだな…今となってはどうでもいいことだ」
私にはもう調べようがない。
実の父がどんな人で
どんな仕事についていたのか?
果たして私という息子がいたと
彼は知っているのだろうか?
そんなことまで深く考えてしまった
はるか昔…
「今はどうでもいいことだ。」
「そうか……そうだな。
俺がいるからな。」
琉樹はそう言うと、
後ろ手に手を伸ばし、俺の身体を
抱きしめる素振りをした。
「役者の才能のないアンタなんか
付き人で十分よ」
長く母の個人事務所を
運営していた雇われ社長が病に倒れた時
この際だから朱雨玲が事務所代表になっては?
という話があった。
その頃私は大学を出て、
母の元を去っていた。
知り合いのツテで、
経営コンサルタントを派遣する
会社へ就職し、上司について実践を
交えて学び始めたばかりだった。
周囲はその話にな乗り気だった。
しかし母は首を縦に振らなかった。
私に事務所は任せたくないの一点張り。
私は私で、母とは仕事をしたくなかった。
私たちの仲は最悪の状態だった。
その中で琉樹が気をもんで
いたのはたしかただっただろう。
彼のマネージャーがある事故で
離れざる得なくなった時、
「自分のマネージャーに朱雨玲を
推薦したい」と彼は言い出した。
その時 母は恐らく琉樹の口添えから
無下に却下するのを躊躇った。
「朱雨玲をマネージャーに?
あの子が出来るはずないじゃない…」
そう言うと眉を釣り上げた。
「冗談じゃないわ。
この業界のノウハウすら
何も分からない素人。
事務所の代表だの、バカみたいなこと
考えて…萊社長が使い物にならないなら
他所から連れて来た方がいい」
「でもね、マーマ、いつかは
朱雨玲がやるべきだよ。
マーマの実の息子なんだし、今から修行すれば
…周りだって納得する。
俺としても朱雨玲と二人三脚で
やっていきたい。
あいつなら絶対的信頼を寄せられる」
母は琉樹には子供の頃から甘かった。
そして条件付きの
付き人として私の
このエンターテインメント業界の
修行が始まった。
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