これは私の妄想物語



滝蘭と言う名の、明蘭の息子。

確か明蘭が産後すぐに取った客に
肺病を移されて、
泣く泣く手放したと言ったか?
そんな話を楊氏から聞いた事がある。

明蘭を遊郭から大枚積んで身請けして、
彼女の病気を治すために
その時代より未来へ連れて行った。
龍族でもない普通の人間を…。


そんなことが出来るのか?




「明蘭さんは確か…朱雨玲さん達の
お身の回りをお世話される方ですよね?
滝蘭さんとは複雑な御事情が
お有になるようで」

「ええ、まぁ。…そうですか。
その息子さんが」






夜も更けて、
Y氏もかなり疲れているようだったので
私達はそれぞれの寝室へ下がった。

かなり遅い時間帯だったが、
まだ楊氏は自室へ戻っていない。

「一体どこへ言っているのか?」


もう二日続けて朝帰り。
こんなことはほんとに珍しかった。






部屋のベッドに横になる。


時空の旅行をすると
過去未来現在と行ったり来たり
目まぐるしく動くので、、

特に楊氏の場合は、
魔王との永遠とも言える闘いに於いて、
居場所を特定されにくくするため
とにかく激しく動く。

そのせいで、今自分がどこにいるのか、
時にわからなくなり、時系列を追うだけで
とにかく疲れる。




Y氏の明蘭の話から
ひょんな事を思い出す。

あれはいつだったか?
なんの前触れも断りもなく
いきなり楊氏が
「船に乗る」とだけ私に告げて
明蘭を船に乗せたことがあった。


私は少し嫌な予感がした。
龍王には断りを入れたのか?
だいたい龍族でもない人間を
時空の旅に連れ出すこと自体
無謀だ。

用意周到、全てに於いて
完璧なまでの楊氏が
なぜこんなことをする?

しかし私は彼に背けない。
彼は私にとって、命の恩人でもあり、
師傅shifu(特殊な技術等の尊敬する師)
だから。




┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

船が着いた場所は、
上海からさらに北へ登った港町。
そこから外国航路の船が出る。

海は冬の嵐の真っ最中で
内外の外国船が停泊し
近隣の宿屋も満員御礼。

しかしその中の1軒、
部屋がふたつ空いている宿屋へ
楊氏は船から降りて
真っ直ぐに歩いて行った。

もしかしてその部屋を予め用意していた?
今思えばそうだったのかも。

楊氏は全てのことを
人任せにしない。
自分の表向きの商売は
1番の信頼置ける男に任せているが、
裏の商売(武器商人)と
決して他人に
この素性を悟られては行けない
龍族の事に関しては、
この私でさえ使わない。

それほどまでに細部に
きめ細やかな配慮をするこの人が、
明蘭をなんで?




船を降りると
強い北風に
益々細くなった明蘭が飛ばされないよう、
私はしっかり彼女の肩を抱いて
歩き出すのだった。



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