これは私の妄想物語。


-寛恕(カンジョ)とは
広く心が思いやりをもって許すこと。






「ここにお前の母 明蘭が
眠っている。
明蘭の一族は既に滅び、
今は花を手向ける者も居ない。」



荒れ放題。
雨ざらし日晒しになった墓石を
慰めるように
楊春明がその表面を撫でていた。


私は母を知らない。
記憶を辿って行っても
そこだけがすっぽりと抜け落ちている。



「母は私の事を
思い出す事があったろうか?」
そう呟くと


「あるに決まってるだろ!」
それまで黙っていた烈が
怒ったように口を挟んだ。

「どこの親でも、自分の産んだ子の事は
忘れるもんか!」


そうなんだろうか?
「私は母を知らない…」



そんな事はないだろ?
楊春明が私の顔を覗き込む。


思い出してみろ…
お前によく似た人を。






「先生のお薬はとてもよく効くわ。
ほらっ!見て、
もうこのとおり!
足の痛みもすっかり消えた」

その人はそう言って
私の手をしっかり握り、
火傷で痛むはずの足で軽く床を叩いた。


私とおなじアルビノだと言った女(ひと)。
纏足を履いた…

纏足?!

「お前の母はあの国でも珍重される
纏足を履いた美しい花魁」




真っ白な髪をお下げに結い、
殆ど化粧っ気のない顔に
唯一赤い唇が印象的だった。
治療を終えて別れ際、
何故か私はその人の部屋を出ていく前に
もう一度振り返る。
白いまつ毛の奥の
薄い灰色の瞳が
潤んでいたように感じたのは、
あれは気の所為ではなかった?

あれが?


ひょっとして、、春明…
あれもお前が仕組んだこと?
私が魔王の館へ出向く前
船宿での出来事は…









「あの時、
彼女の死期は迫っていた。」

楊春明はそう言った。



彼は墓石を見つめながら

『お願い、春明。
最後にもう一度
あの子に逢いたい!!』
明蘭に懇願された。

赤子の滝蘭と泣く泣く別れて、今まで
一度もそんな頼み事はしなかった。
その彼女が、死を目前にして
我が子に触れたいと切に願った。


私は…
二度「禁」を犯した。

一度目は彼女の病気を治すため。
そして二度目は…

龍族でない人間を
時空の旅に連れ出した。」






「そんな。。。
タダでは済まない!」




「さすがにな、龍王は
腹に据えかねた?かな。
だから、行かなきゃならん」

楊春明はいつものように
鼻で笑った。




「ば、、つ、、、を?
龍王はお前を処罰する為に
呼んだと言うのか?」



「…さぁな、わからん」





私のために…?

私のために。
お前は…

この旅は全て私のために。
彼が私へ残す
最後の置き土産。




なんという愚か者、この私は。

本当は全てわかっていた。
自分の置かれた立場も何かも。
全て抗うことの出来ない運命。
いつしか他人を羨み、嫉み
少しでも優しくされれば
それを逆手に取る。
自分の容姿を利用して、
他人の心に付け入る。
何も知らないふりをして…
私の中身は醜い。
そんな私をお前はその真っ直ぐな瞳で
ずっと見つめていたのか?

母の、、祖父の
義母や道木の気持ちを汲み取れず

そしてお前の気持ちに
思い至ることはなかった…






身体が震え
思わず彼の胸にしがみついた。

「許してくれ」

声が掠れた。





彼はいつものように
満面の笑顔で私を受け止めて、
その両の手で
大きく包み込み、
ゆっくりと
そして強く抱きしめたのだった。







❦ℯꫛᎴ❧





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次回からは「烈のおとぎ話」
続編となります。



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