これは私の妄想物語。


-寛恕(カンジョ)とは
広く心が思いやりをもって許すこと。




哀しみは涙と共に
溢れ流れていく。


その夜、彼の胸でたくさんの涙を流し
沢山の恨み言を吐いた。



そして泣き疲れ、
心が落ち着くと、長年
胸の中に燻っていた熾火のような塊が
消えているのに気がついた。




誰もお前を疎んじていた訳では無い。
それぞれの事情が 綾織のように複雑に
絡み合って、お前の運命に
関わってしまっただけの事。
その糸を解くには
時間がかかり過ぎた。


そう言うと、
楊春明は疲れたように
その身体を寝床に横たえた。





「おいで」
彼の腕がそっと私を抱いて
自分の腕を枕にした。


すぐ目の前に彼の端正な顔がある。
その輪郭の綺麗な唇に
私は指先でそっと触れた。
彼はうっすらと目を開けて、
私の唇にその唇を軽く重ねる。



「滝蘭…なんで人形になることを選んだ?」

「……春明は、特別だから。

龍族の人間は、烈のような特殊な存在以外
お前のそばには
侍ることが出来ないと聞いた…。

龍族の人間ではなく、人形なら
ずっとずっと
そばに居られると思った…」



「浅はかな…」
彼が口角をあげる。



「龍族の人形は…これもまた特別な存在。
お前たちを庇護する特殊な人間以外は
お前達人形をそばに置けない。
私でさえ、無理なんだよ」


私は意気消沈した。やはりそうか…
烈からは聞かされたけど、、、。





私の髪を撫でる
その手の動きは心地よいのに、
切なさで胸が押しつぶされそうだ。
このまま…昇華しない気持ちのまま
私達は別れるのか?


「…私は」

彼の瞳に映る私の姿。

ふと、彼の指先が
言葉を止める。





「目を閉じて…。滝蘭。

お前の思念で
私を…感じて…」


……



そして
私たちは深い眠りにつくのであった。





翌朝。

彼の胸の中で目を覚まし
できる限りの
彼の匂いを受け止めた。





┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



そして私達はその山の上の
楊家の墓所へと
向かうのだった。



雨はすっかり上がり、
冬の穏やかな日差しが
私を包み込む。



もう会えない人達。
今ならきっと
少しは優しい言葉のひとつも言える。





木の影になった少し湿った土の上。
枯葉を踏みしめて歩く音だけが
耳に響く。

楊春明は楊家の墓所の手前から
右に折れる。

「春明、、道が違うぞ!」

「こっちでいいのだ」

しばらく行くと
少し広い敷地の
知らない墓所へと入っていく。



墓所の入口付近には
小さな古い苔むした墓石がいくつか。
長らく人は来て居ないのか、
その奥の
大きな墓石に、周りの枯れ草が
覆いかぶさっているのが見える。
それを烈が取り除くと
猫足の墓石が顔を覗けた。

「ここは?」

彼は私を下ろし、しゃがみ込み
私と同じ目線になった。





「お前の、母が眠っている」







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