これは私の妄想物語



-寛恕(カンジョ)とは
広く心が思いやりをもって許すこと。





部屋に戻ると
私付きの使用人が真っ白な
バスローブとタオルを持って待っていた。

彼は深く頭を下げて
それを私に差し出す。

「風呂へ入れ」という事だな。


「あの…すまないが
湯上りに
水を用意してくれたまえ。
それと、、燭台の蝋燭だけでは
本が読めないので、
悪いがランプがあれば
お借りしたいのだが?」


彼はまた黙って、頭を下げた。
決して目を合わせようとしない。


そのままバスルームの隣の
控えの間らしき小さな扉の奥に消え、
しばらくすると
ランプと水差しをもって現れる。

そしてまた入口の扉の脇の
薄暗い一角に椅子があり
すっと音もなく彼は座った。


まさか一晩中そこにいるつもりなのか?



「キミ…名前は?」
使用人に名前など聞く必要もないのだが…

男はまたも無言。

私は少しイライラして
「用事があれば呼ぶので
一人にして貰えないだろうか?」

彼は何も応えず、椅子に座り続けたまま。

疲れもあって
さすがに 切れた!

「悪いが出ていってくれたまえ!
私はひとりになりたいんだ!!」

さすがに声が大きかったのか?
外でノックがして
使用人が開けると
黒づくめの執事が立っていた。

「どうされました?」

「…彼、、」
私は指さして
「朝まであそこに
座っているつもりなのか?」

「ああ…」
執事は使用人に耳打ちをする。
すると私にまた深々頭を下げて
出ていったのであった。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

やっと一人になれる。




「申し訳ございません。
ご不快な思いをなさいましたね。
あれはヤン様の言葉が分かりません。
ただ気は利きますし、
よく働くので使いやすいかと。
部屋の外に居るように申し付けましたから
どうぞ、ごゆっくりお休み下さいませ。」



部屋の外?
一晩中?
オマケに廊下はここと違って
暖房などないのに…

ああ〜もうわかった!
仮にも…
私は他人の命を救う役目。
みすみす風邪を引かせるような
真似は出来ない。






「わかった。
そんな、、廊下で一晩過ごすことはない。
この部屋の中で構わないが…
目の端に入ってこられるのは
たまらなく嫌だ!
出来れば控えの間で
過ごしては貰えないだろうか?」





騒動は収まり、
若い使用人は頭を何度も下げながら
控えの間に入って行った。



「疲れた……」
やや温くなった湯に浸かりながら、
この先の事が
なんだかとても面倒な事に
なりそうな気がするのだった。





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