18日の朝のこと。
庭に水やりをしていたら、地面に近い植物に
アゲハ蝶が止まっていた。
大人しく動かない様子に、しまったと思った。
うっかり水をかけてしまって飛べないのかも。
しばらく見ていたけど飛んでいかない。
どうしよう。
でもこれだけ暑いからすぐに乾いて
飛べるようになるだろうとその場を離れた。
洗濯物を干す時に見下ろしたら
もう蝶はいなかった。良かった。
そして夕方、6時半頃。
水やりの為に外に出て、朝、
蝶を見つけた場所と同じ所に立った時。
目線の高さに今朝のアゲハ蝶が居た。
あ、元気になったんだ!
飛べてる!今朝はごめんね。と思った瞬間、
蝶はいずみの周りをぐるぐる回って飛び始めた。
頭の上をぐるぐる。
肩の高さでいずみの周りをぐるぐる。
それを何度も繰り返す。
あまりに落ち着きがない飛び方に
「キミは犬か!!」と心の中で突っ込むと
更に激しさを増して隣の家の庭まで暴走(?)
そしてまた戻って来ていずみの周りを飛んでいる。
何これ。
泣けてくるんだけど。
あなた誰?
見ず知らずの昆虫が、
何でいずみに懐いているような飛び方するの?
しかも蝶のくせにそんな暴走飛びして
おかしいんですけど。
この時点でいずみも相当おかしい。
何故蝶相手に泣けてくるんだ。
いずみの周りをぐるぐる回って
その時に声をかけるとさらに興奮して
家の端まで走って行ってまた戻って来る。
それは息子が幼稚園の頃まで生きていた
実家で飼っていた犬の行動だった。
ブリーダーの所でいずみが選んだ子で
結婚して家を出るまで一緒だった。
クーという名のパピヨンの雄で、
いずみはその子に特別な思い入れがあった。
けれど出産して、子どもに手がかかるだけでなく
自分が相当弱ってしまったのもあって
産後は実家に行っても
それまでのようにクーを可愛がっていなかった。
クーが亡くなる頃には
一緒に過ごしていた頃の様に爆裂に元気な様子も
陽気で社交的でいつもご機嫌な性格も
すっかり消えていた。
けれどどんなに静かになっても
人懐っこさや陽気さが消えても
いずみにとってクーは特別なクーのままだ。
今でも、どんな事をしてでも、
幽霊でもなんでもいいから会いたい。
しばらくクーの事を思い出してもいなかったけど
この蝶の飛び方があまりにもクーみたいで
あまりにも人懐っこくて
いずみの周りでクーが走り回っているかと錯覚してしまった。
会いに来てくれたのかと錯覚してしまった。
「姉のショコラ」も居なくなり
当時手がかかった息子も大きくなり、かつ、
部活が終了したせいでいずみの心には少し余白が出来た。
そんな今ならまた独身の頃のように
クーの事を見てあげられると分かったのだろうか。
実は出産後からクーが亡くなるまで、
いずみの意識が以前のようにクーに向いてなかった事を とても後悔していた。
でも今回おかしな飛び方の蝶をクーだと錯覚し
ずっと笑顔で蝶を目で追って
最後にもう一度やりたかったいつものドタバタを
クーと一緒にすることができた。
意識は完全にクーに向いて、心から楽しんだ。
と、錯覚した。
錯覚でもいいしイカれていても構わない。
めっちゃクーが居るように感じた。
あの頃のように楽しかったし、
こんな愛おしい存在が居たことを思い出した。
とても人の気持ちが分かる犬だったので
いずみの後悔を知っていて
このタイミングを見計らって来てくれたのかもしれない。
現実としてはありえないけど
この思考を否定しないことにした。
誰にも迷惑をかけないし、
後悔が一つクリアになるなら採用しない理由がない。
お盆に亡くなった人が帰って来るとか、
来ないとか、
考え方にはいろいろあるみたいだけど
帰って来るという思いが
心の支えになっている人もいるのだろうと
今回思った。
自分が自分の思いを大切にして
否定しなかったら
人の思いも大切にしようと思うようになった。
その人が幸せである考えを
大切にすればいいんだな。