いずみにはお姉さんのように慕っていた人がいた。

 

 

息子は一人っ子だけれど

息子にもお姉さん代わりの存在がいた。

犬のショコラだった。

 

ショコラは息子が生まれた直後から

その手腕を発揮した。

毎朝息子が目を覚ますと

ベッドの下に行き、吠えて知らせる。

布団をかぶってしまい自分では直せない、

ミルクを吐き戻してしまったなど

見ていないと気づかない異変にも

動物の勘で察知するのか

ベッドの下で吠えて知らせる。

 

息子が幼稚園に入ると

毎日4時に玄関で元気に出迎えた。

小学生になり、最初の頃は早めの帰宅。

それにもすぐに順応し毎日出迎えた。

 

やがてまた大体4時の帰宅になり

4時少し前になると

玄関に行って待つようになった。

 

 

 

 

そして。

いつ頃からだろう。

4時のお出迎えに対して

3時に移動して玄関で眠って待つようになった。

 

 

息子が小学3年生の9月、祭日の前日

体調が急変し

祭日に息子といずみが見守る中、

息を引き取った。

 

 

 

 

 

そんな愛犬だったが

元は夫が一人で飼っていた犬だった。

最初は人の言葉も分からず、

犬のおもちゃで遊ぶこともなく、

少し外出しただけで体調が悪くなったり

エサが変わっただけで吐いてしまったりするような

弱くて、頭の悪い犬なのかと思っていた。

長く歩くことも出来ず、毛もハゲハゲで

なんだかみすぼらしい犬だった。

 

 

 

ところが半年、

1年経つうちに別人のように変化した。

毛はフサフサになり外見も可愛らしく

どんなお出かけにも対応、お出かけ大好き、

実はどんなエサでもOKだった食いしん坊。

言葉もどんどん覚えて

コミュニケーションが取れるようになり

最終的には人間が言葉を発しなくても

人の事が分かるような行動を取るようになった。

これが本来のショコラだった。

 

 

 

 

 

 

 

夫が一人で飼っていた頃

実は悪質なブリーダーのような飼い方をされていた。

一日中ケージに入れっぱなし、不衛生。

飲み潰れて帰らない日はそのまま、

散歩は気まぐれ。

弱って犬本来の体力が無くなってしまって、

ストレスで毛も生えなかったのだと思う。

いずみと過ごすうちに、ショコラの表情は

本当に生き生きとするようになっていた。

 

 

 

 

 

 

今思うのは、この犬の飼い方を見て

この人と結婚するのには大きな問題があると

はっきりと認識し、

その思いや違和感を

無視してはいけなかったという事。

 

 

自分の欲だけでペットを迎え入れ

可哀そうな事をしていても平気でいられる人が

家族に対してだけ思いやりのある行動をし

責任を持つ事など出来る訳がないからだ。

 

 

いずみは気づく能力が無かった訳じゃない。

けれど自分の思いや他人に感じた違和感に対して

無視することが自然になり過ぎてしまっていた。

口に出して言ったとしてもそれは弱く、

支配しようとしている人間には

確実なターゲットとして映ったはずだ。

何もかも受け入れるのが当然だった。

どんなに心が嫌だと言っても。

何故ならそれが自分を守る方法だと

信じてしまっていたから。

こんな私が生きる道はそれしかないと

思っていたから。

 

 

 

 

 

 

 

ショコラを飼えた事だけは

夫と結婚してよかった事かもしれない。

思い出せば、こうしてやれば良かったと

ものすごい後悔が今でも消えない。

けれど生き生きとした表情からは

ショコラ自身も楽しかった時があったのだ

という事も分かる。

何より息子に対しては最後まで

お姉ちゃんとして振る舞ってくれていた。



息子の事は、心残りだったのではないかと思う。

 

 

継母だったけれど

ショコラが居なくなって一番悲しんだのは

多分いずみだと思う。

いずみの右腕となって息子の面倒を見て

息子を大切にしてくれた事に

今でも本当に感謝している。

みんな天国に行ったら

また3人で遊ぼう。

 

 

 

 

 

 

 

庭のバラが咲いたからショコラにもあげるね。

自己満足だよ。知ってる。

ショコラはいちごや桃がほしいんだよね。