『星を掬う』 | クラバートのブログ

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2010~すきまの時間に読んだ大切な本たち(絵本・児童書中心)のなかから選んで、紹介します。小学校の図書室を16年勤務後、現在も読み続けています。

主人公は、小学校一年生の夏に母と別れ、(母へのネガティブな気持ちを秘めながら)父方の実家で暮らしてきた吉野千鶴29歳。父や祖父母を亡くした後、初めての恋愛から結婚するものの夫のDVにより離婚、今もその元夫の暴力・搾取から逃れられずにおびえながら目立たぬように暮らしています。苦しんでいます。本書は過酷な状況を受け入れている彼女が、ひょんなことから実母と22年ぶりに再会し再生していく物語です。母は母で52歳にして若年性認知症を患っていて、病状は少しずつ進行しています。

 

 

身寄りのいない千鶴は「可哀そうに」と声を掛けられると、「千羽鶴みたいじゃないですか。何も救わない。」(P20)自己満足のために役にも立たない善意を押し付けられているようだと棘のある言葉で応酬していましたが、母娘関係に躓いている親子を間近で見たり、見返りを求めない人の善意に触れ、母というよりも「一人の女性」の半生を知り、心の波動を上げていきます。

 

やがて「わたしはもう、(かさ)(ぶた)を剥がしはしない。血が流れていると声高に叫ぶようなこともしない。それだけは確かだ。」(P243)と過去も母を恨む気持ちも納めて地に足をつけて前を向いて歩いていきます。

 

決して甘美ではないDVや介護の現実を冷静かつ客観的に描く作者の独特な世界観に触れ、母娘の数奇な運命を追体験し、打ちのめされ、最終的には自身の在り方を自問自答させられました。親となっても大した大人にはなっておりません。今も人生の途中でもがいております。

 

 

著者は『52ヘルツのクジラたち』の町田そのこさん。