『うみがめのおじいさん』 | クラバートのブログ

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2010~すきまの時間に読んだ大切な本たち(絵本・児童書中心)のなかから選んで、紹介します。小学校の図書室を16年勤務後、現在も読み続けています。

 

 

『おさるのまいにち』(1991)などの「おさるシリーズ」、個人的に好きな『へびくんのおさんぽ』のいとうひろしさんの作品です。

 

 

 

 

1990年初め頃から、主人公が知恵と勇気を振り絞って成長していく物語というよりも、ややゆったりした作品が次々生まれ始めました。その象徴がいとうひろしさんだったように思われます。「おさる」は読者と同じように、朝起きて、食べて、排せつして、遊んで、眠る…単調な毎日を送っています。それでいいんだよ!と言わんばかりの癒しの作品で、文字数が少なく、すいすいページがめくれる児童書でした。

 

私は「他人とかかわることに疲れ」「無理に個性を発揮しなくてもいいじゃない」というお年頃(高学年)の子どもたちにお薦めしていました。が、低・中学年向けに配架されている図書館が多かったようです。自宅を開放して本を貸し出していた友人たちは「また癒し!?」「ガツンとした作品出てこないの?」と散々ぼやいていましたっけ。

 

というわけで、

 

久しぶりのいとうひろしさんの作品で、単純に懐かしさに駆られました。うみがめは「おさる」の成長形(個としての成長というよりも単に年を重ねた存在)のようにも感じられました。

 

広い海の真ん中で、ものすごい年寄りのうみがめのおじいさんが波に揺られています。「たくさんの おもいでが おじいさんの こころと からだを つくりました。」今はもう旅に出ることはありませんが、「たくさんの おもいでが なみの あいだから あらわれてきます。」

 

そして今も昔も、無理せず「あるがまま、そのままの自分でいいんだよ!」という声が聞こえてきます。そこが魅力です。老人ホームでの読み合いや大人のひとり読書にも向くと思われます。