幻の金貨は誰のもの?

幻の米国金貨、1933年発行20ドル金貨は政府のもの

と2017年に決定したと書きました・・・ひょっとしたら、その記事を読んで

幻の米国金貨は2002年のオークションで当時の最高落札価格を記録したのでは?

と思った方がいるかもしれません・・・鋭い!

実は、1933年発行20ドル金貨をめぐるサスペンスが、もう一つ、あったのです。

 

コイン収集は元々王侯貴族の趣味でした。

このサスペンスにも登場する重要人物もエジプト王ファールーク1世です。

彼は貪欲なコレクターでコイン以外も収集していましたが

1944年に1933年発行20ドル金貨を入手しました、例によって経緯は不明ですが。

彼は律儀にも米国政府に1933年発行20ドル金貨の米国からの持ち出し許可を申請します。

この時、なぜか持ち出しが許可されてしまいます・・・米国政府、痛恨(?)の過ちでしょう。

おそらく、この許可が1933年発行20ドル金貨の運命を決定づけたのかもしれません。

 

その後、1933年発行20ドル金貨は未発行であり盗難品であることが発覚。

米国政府としてはファールーク1世に返還を求めたかったのですが

第二次世界大戦(1939〜1945年)中であり、返還交渉は進みませんでした。

更に、戦後の1952年にはエジプトでクーデターが発生し

1933年発行20ドル金貨を含めてファールーク1世の所有物は没収されました。

米国政府はエジプト政府に1933年発行20ドル金貨の返還を求めるのですが

クーデター後の混乱の中、1933年発行20ドル金貨の所在が分からなくなりました。

 

時は下り1996年、英国コイン・ディーラーが米国で逮捕されました。

米国政府のシークレット・サービスによる、おとり捜査に引っかかったのでした。

シークレット・サービスは米国大統領警護で知られていますが

元々は南北戦争時に偽造通貨に対する防諜・捜査を目的に創設された機関です。

1933年発行20ドル金貨の所在を探っているうちに

ファールーク1世の所有物だった1933年発行20ドル金貨を

英国コイン・ディーラーが所持していると突き止めたのでした。

 

当然のことながら、1933年発行20ドル金貨の所有権について揉めました。

その結果、1933年発行20ドル金貨はオークションで売却され

売却で得られる利益を米国政府と英国コイン・ディーラーが分け合うことで合意しました。

一方的に米国政府が没収しなかったのは、なぜか?・・・推測ですが

①コイン・ディーラーが外国人であり、かつ、米国の重要な同盟国である英国出身だったから

②上記のように、一度は米国政府が米国外への持ち出しを許可したものだったから

この二つが主な理由でしょう。

 

2006年にサザビー(世界最古の国際競売会社)のオークションに出品され

660万ドル!で落札・・・当時のコイン最高落札価格でした。

手数料など諸経費を含めた総額は759万20ドル・・・ん?この半端な20ドルは??

この1933年発行20ドル金貨、経緯はどうであれ未発行のものでした。

未発行のままであると所有権について落札後も係争の原因となりえます。

そこで米国政府は1933年発行20ドル金貨を正式に発行し

その20ドル分は別に請求したのです。

 

ところで、この1933年発行20ドル金貨は英国コイン・ディーラーから押収後

世界貿易センターにある財務省の金庫で保管されていました。

所有権について合意が成立後、Fort Knox陸軍施設に移されましたが

それは2001年7月、そう、9・11テロ事件で世界貿易センターが崩壊する2か月前。

もし、世界貿易センターの金庫内に保管したままであった場合

耐火式金庫であったとしても灼熱の中、金貨から金塊に変貌していたことでしょう。