英雄というのは、時と置きどころを天が誤ると、天災のような害をすることがあるらしい

「英雄児」(司馬遼太郎著 新潮文庫短編集「馬上少年過ぐ」収録)

の最後に出てくる言葉です。

 

コインで紹介する英雄・第5回で紹介したルイ14世がそうであったように

英雄であるが故に戦争を起こし、当時の人だけでなく子孫にまで災厄をもたらすことがあります。

真の英雄というのは派手な戦争で領土を拡張するのではなく

争いを可能な限り避けて平和を維持することができる人物ではないでしょうか?

そんな人物が歴史上、いたでしょうか?・・・いました!

 

Roman Empire, 138-161, 1 Denarius, 3.4g (Silver), RIC 136

Hermes:ヘルメスの杖(caduceusとも呼ばれる)と小麦の穂を握る手

Hermes:ヘルメスはギリシャ神話に登場する神々の伝令で

その杖には2匹の蛇が巻き付き、翼で飾られることもあります。

商業・交通のシンボルとして利用されるそうです。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Caduceus_large.jpg

なお、巻き付く蛇が1匹で翼で飾られていない杖は

ギリシャ神話に登場する名医アスクレーピオスの杖で医療のシンボルとして利用されます。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Esclapius_stick.svg


Roman Empire, 138-161, 1 Denarius, 3.4g (Silver), RIC 432, MS, Strike 5, Surface 4

祭壇の上にとまるワシ

 

これらの銀貨に描かれた人物が誰であるか、わかるでしょうか?

 

ローマ帝国最盛期を築いた五賢帝の4人目、Antoninus Pius(在位138〜161年)です。

この名前にあるPiusですが、慈悲深い、という意味です。

元老院から嫌われていた先帝ハドリアヌスを神として祭るために奔走したから、とか

ハドリアヌス帝により処刑されるはずであった人々を救ったため、とか言われています。

 

それ以上に注目すべき点は

彼の治世では大規模な軍事遠征がなく、派手な建築活動もない一方で

学問・芸術・文化を振興し、立法・行政の整備・改革を行ったそうです。

歴史に残るような戦争・建築物がないため

世界史の授業でもAntoninus Piusの名前が出ることはほとんどなく

したがって、馴染みがない人物であると思います。

しかし、こういう人物こそ、真の英雄ではないでしょうか?