フランコ・ファジョーリとヴェニス・バロック・オーケストラのコンサートの感想 兵庫芸文 初日 |   kinuzabuの日々・・・

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フランコ・ファジョーリとヴェニス・バロック・オーケストラのコンサートに行ってきた。会場は兵庫県立芸術文化センター大ホール、2018年11月18日。

 

 

ファジョーリは、今、ヨーロッパでは大スターのカウンターテナー。その初来日ということで、コアなファンが集まったのか、あの大ホールが満員だった。入場料A席5000円だからファジョーリを知らない人も多いかもしれない。

歌うのはすべてヘンデルのオペラアリア。ヘンデルのオペラが大好きな私としては、絶好のプログラム。ただ、当初発表のプログラムとは大きく変わった。あまり影響はなかったけどね。

 


ところで、大ホールの反響板に見たことのない透明プラスティックの音響反射板と思しき曲面の板が取り付けてあった。これが噂の音響改善策か?音響がどう変わったか楽しみではある。


最初、ヴェニス・バロック・オーケストラの演奏があって、キツキツではないけれど、しっかりしたバロックオケだなと思った。テオルボがないのが残念かな。

2曲目でファジョーリ登場。顔が固いように見えた。曲は歌劇『オレステ』より「激しい嵐に揺さぶられても」。テクニックは申し分ないが、まだ実力はあるはず。

3曲目は歌劇『イメネオ』より「もしも私のため息が」。『オレステ』よりふくよかな歌になった。硬さが取れ、自由自在な歌。

4曲目はオケのヴィヴァルディのコンチェルト。ガシガシ系ではなく優しい感じ。

5曲目は歌劇『リナルド』より「愛しい妻、愛しい人よ」。妻が連れ去られて呆然としている心を、つらく悲しく、でも気丈に歌ってくれた。

6曲目は歌劇『リナルド』より「風よ、暴風よ、貸したまえ」。敵を倒しに戦場に行く勇ましく激しい歌。やっぱりこういう曲はヘンデルの真骨頂!迫力満点で、技巧も素晴らしい。


前半はすばらしかったけれど、まだまだ行けるはず。


後半のファジョーリの登場は、リラックスした笑顔がうれしかった。

7曲目は歌劇『ロデリンダ』より「あなたはどこにいるのか、愛しい人よ」。死んだと思われていたベルタリドが実は生きていて、生き別れになった妻をいとおしむ歌。ジーンとして、心が痛む。歌も前半より曲の流れの自由度が増して、テクニックも味あわせてくれる。

8曲目は歌劇『忠実な羊飼い』より「私は胸にきらめきを感じる」。このオペラは知らないけれど、とても快活で、楽しく聴けた。

9曲目はオケのヴィヴァルディのシンフォニア。

10曲目は歌劇『アリオダンテ』より「嘲るがいい、不実な女よ、情人に身を委ねて」。アリオダンテが婚約者、地位を失い、嘆く歌。嘆きの深さをじっくりとした歌で見事に表現。もうこのレベルでこの曲が聴けるなんて信じられない。

11曲目はオケのジェミアー二のコンチェルトグロッソ。オケトップの四重奏の繰り返しが楽しかった。

12曲目は最後のアリア、歌劇『セルセ』より「恐ろしい地獄の残酷な復讐の女神が」。トップギアで目くるめくアリアをドライブして、目が回るほどの快感。これぞヘンデル!という感じ。本当にすごい。興奮の嵐!


会場は大変な盛り上がり。後半のファジョーリは体の動きもしなやかでノリノリだった。そしてアンコール。

ファジョーリの口から「Dopo notte」と聞いたとき、やったー!と思った。『アリオダンテ』の勝利のアリア。ただ、最初のAだけで終わってしまった。ヘンデルのアリアはABAで最初のAを繰り返す。そのBとAがなかったのでちょっと悲しかったが、Aの最後に装飾音を入れてくれたのでまあいいか。

これで終わりかと思ったら、「Lascia ch'io pianga」ときた。『リナルド』の超有名なアリア「私を泣かせてください」。囚われの身になったアルミレーナが自分の境遇を嘆く歌。これソプラノのアリアちゃうんか。まさかこの曲を歌ってくれるとは思わなかった。

会場で拍手が起きたらファジョーリが「知っているの?」と聞いて、歌いだしたら、繰り返しのAを客席に歌わせた。歌える人がいるのかと思ったら、何人もの人が歌っていて大変驚いた。私の席の後ろでは、オペラ歌手と思われる人が大きな声を響かせて歌っていた。わあ、その筋の人がいっぱいホールにいたんだ。

ファジョーリはこの曲を若干顔をゆがめながらしっとりと優しく歌ってくれた。高音が続いて大変なんだろうと思う。あまりに美しくてこちらが涙を流した。


ファジョーリを生で聞いたのはもちろん初めてだが、ほんとに素晴らしいカウンターテナーだった。深い低音から華やかな高音までどの音域もしっかり出る。劇の表現も悲しい曲も快活な曲も見事。まさに天才。ぜひオペラで聴きたい。

 

テクニック的には、もっと高音を延ばせるのだろうけれど、今回の公演は来日初日だし、これだけ歌ってくれたら満足。

 

ヴェニス・バロック・オーケストラもよかった。ファジョーリの伴奏は息の合った音色もぴったりというとても気持ちの良いものだったし、オケだけの曲もテンポよくバロックオケらしい音を存分に聴かせてくれた。

 

興奮の2時間半だった。

 


一方、ホールの音響は、私の席(F列)ではあまり変わったように思えなかった。ちょっと散漫。やっぱりもっと値段が高くてもいいから小さなホールで聴きたかったな。

だから、福岡、東京、水戸はもっとすごい体験ができるのだろうと思う。それがとてもうらやましい。ぜひ足を運んでください。