バーゼル歌劇場《フィガロの結婚》 の感想(びわ湖ホール) |   kinuzabuの日々・・・

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A「みなさんこんにちは」

B「こんにちはー」

A「今日はびわ湖ホールに来ています。バーゼル歌劇場のモーツァルト《フィガロの結婚》の公演です」

B「モーツァルトって名前はよく聞きますよー、胎教にいいとか、α波が出るとか、お酒を作るときに聞かせるとおいしくなるとか」

A「なんだか微妙に古い話のようですが」

B「それで、今日はどんなオペラなんですか?」

A「倦怠期を迎えた伯爵と伯爵夫人がいて、使用人のフィガロとスザンナの結婚を機に、伯爵がスザンナに言い寄るんです。機転を利かせて伯爵の魔の手から逃れてフィガロとスザンナは結婚します。そして、伯爵夫人と伯爵の仲を元通りにさせてハッピーエンドで終わるんです」

B「『初夜権』というのが出てくると聞きましたがー」

A「そんなことだけ知ってるんですね。伯爵が、いったん廃止したはずの初夜権を行使するかどうかかでもめるんですよ」

B「ふーん、今回もあらすじを頭に入れておかなきゃ」

A「今回の演出は、何やっているかわかりにくいかもしれません。だから、ほんとは誰がどんなアリアをどういう順番で歌うかを知っていた方がいいんですよね。でも、舞台で起こる細かいことにあまり気を留めずに、全体的に音楽と劇を楽しむ感じで行きましょう。じゃあ劇場へ」

B「はーい」





A「終わりましたね。どうでしたか?」

B「面白かったんですが、何をやっているかわからないところがいっぱいありましたー(涙)音楽はとても楽しかったです」

A「音楽は快調で美しかったですね。オケは人数が少なくても十分な音量があるし、テンポも快調で、音色は古楽器風。歌の水準も高かった。フィガロは力強くキレがあり背が高くかっこいい。伯爵も負けない。負けているのは背の高さぐらい。伯爵夫人はドスが効いて、ケルビーノは可憐な声。これでスザンナがよければ・・・って贅沢でしょうね。ケルビーノのアリア『恋とはどういうものかしら』なんてあまりに美しくて体が固まりましたよ。この曲でこんな体験は初めてでした」

B「あ、その曲は知ってました。きれいでしたね」

A「また、3幕の結婚行進曲もなんか幸せ感がこみ上げてきて、思わず涙がでました」

B「よく涙が出るんですね。お酒を飲んだら泣き上戸になりそうで厄介かも・・・でも演出が、、、筋はわかったんですが、最初から動物が出てくるし、紙飛行機を飛ばすし、サボテンも出てくる。大体、舞台の時代が現代ですよね?このオペラって中世貴族とその使用人の話じゃなかったんですか?」

A「最近のオペラでは時代を現代に持ってくる演出が多いんです。そしていろんな小道具を使って、オペラの内容を補完しているんですよ。」

B「はあ?どういうことですか」

A「例えば、1幕の下手には動物がいたでしょう?トラとキリン。背景もなにやら動物っぽい。ここはどこでしょう?」

B「ええっと、動物がいるんだから、動物園かなあ?」

A「じゃあ、上手のコンクリートの区画は?」

B「下手が檻ということは、動物園の檻の裏の飼育員さんが動物を世話するところになるのかな」

A「多分そうだと思います。動物の代わりにフィガロとスザンナが動物園の檻に住むことになったんじゃないでしょうか?今まで裏方だったのに、スザンナとの結婚を機に伯爵から表に出されてしまった。だからこれからいろいろ厄介なことが起こるという話にしたとか」

B「ちらしには、ロスの邸宅が舞台だと書いてましたが?」

A「じゃあ、伯爵が飼っている動物の部屋っていうのはどうですか?とにかく裏と表です」

B「裏と表ですか?」

A「では、2幕と3幕の舞台装置はどうでしたか?」

B「えっと、2幕は下手が居間で上手がバスルームでした。3幕は下手が広間で上手が壁みたいな。ということは、2幕も3幕も下手が表で、上手が裏ということですか?」

A「そう思ってます。ホントかどうかわかりませんけど。1幕から3幕まではどれも下手が表で、上手が裏。舞台には表と裏があったんですよ。そして、登場人物も表の姿と裏の姿を見せていたんじゃないでしょうか?」

B「裏と表の姿ってどういうことですか?」

A「1幕では出番のないはずの伯爵夫人がきて、飼育室でケルビーノと逢引してましたよね。2幕ではバスルームに隠れたケルビーノが鏡に『愛』という字を書いてハートマークで囲み、メッセージを書いた紙飛行機を居間に飛ばしたりしてました。3幕では伯爵がスザンナの策略を盗み聞きしてましたよね」

B「表では仕事のできるかっこいいイケメンでも、家に帰るとマザコンで、ママに甘えているようなものですね」

A「うーん、どうだろ・・・そして4幕には舞台上に裏は見えなかった。1幕から3幕まで裏と表があるのに、4幕はありませんでした。何故でしょう?」

B「ええっと、いろいろ策略があって、最後はみんなでハッピーって感じですよね。ということは、1幕から3幕までは表裏の陰謀策略があって、4幕はそれがなくなって裏がなくなったっていうことですか?」

A「なんとなくそんな感じがします。4幕にも伯爵夫人とスザンナの策略がありますし、裏から策略に絡んだ人たちが一斉に出てきますから、裏はみえないだけなんでしょう。でも、綺麗な景色を見ながら、みんなでハッピーエンド、お芝居は終わり、みいたいな。」

B「4幕の背景は高台から夜景を眺める感じになってたけど、伯爵はとっても裕福なのね。あんなところに住みたいわー」

A「無理だよ。。。」

B「いろんなところで紙飛行機が出てきましたけど、あれは何だったんですか?」

A「何だと思いますか?いろんなところで飛んでましたよね」

B「2幕でケルビーノが伯爵夫人に飛ばしたり、伯爵夫人が去るときに飛ばしたり、最後に客席に飛ばしたり。結婚式でも飛んでたかな、、、んー、、えっと、『好き』とか『愛しい』ですか?」

A「ずばり『愛』だと思います。ケルビーノは紙飛行機を使って、みんなに『愛』が訪れますようにって飛ばしてくれていたんですよ、きっと。2幕の幕切れ、伯爵夫人が独りになって部屋から出て行くときにふっと紙飛行機が飛んでくるところなんてとても印象的でジーンときました。最後は客席に向けて紙飛行機を飛ばし、観客にも『愛』を分け与えてくれたんだと思います」

B「私にも愛をわけて、わけてー」

A「紙飛行機を拾ってきたら分けてもらえるかもしれないねー」

B「3幕とか4幕とかサボテンが出てましたよね」

A「実は、よくわからなかったんです。例えば、1幕で小さなサボテンが出てきますが、3幕4幕ではあれが大きくなって出てきました。、小さな愛がみんなの愛に大きくなったとか。または、サボテンには棘がありますから、愛には棘がつきものだとか。全く逆ですけど。」

B「最後に、カップルをいろいろ変えてましたよね?」

A「これもよくわかりませんが、どんな人にも愛がある、どんなカップルにも愛がある、結婚してても、不倫であっても、ゲイであっても、レズであっても、愛はすべてに与えられる、そんなメッセージかもしれません。2幕でケルビーノは伯爵夫人ともスザンナともキスしてましたよね。また、3幕でフィガロがマルチェリーナと抱き合っているときにスザンナが誤解してフィガロを平手打ちしますが、フィガロも打ち返しました。スザンナが親子の愛を否定したからそれをたしなめたとかね。不倫、親子愛とかも含まれているんじゃないでしょうか?まあ、これは考えすぎかな」

B「ふーん、いろいろあるんですね。しかしこんないろんなことを考えるなんてオペラを見るのって大変ですよ」

A「そんなことはないですよ。オペラは、管弦楽あり、歌あり、演出あり、装置ありですから、楽しみ方は人それぞれなんです。その人なりに楽しめたらいいんですよ。今まで言ってきた演出の謎解きも勝手に考えただけで、演出家の意図かどうかわかりません。だけど、舞台を見ていろいろ考えるのも楽しいでしょう?」

B「こんな演出の細かいことに凝る人はひねくれものですよね」

A「いや、そんな話じゃなくて・・・」

B「とにかく、楽しめたらいいんですね。で、この公演の印象はどうだったんですか?」

A「最初の序曲がすっごく快調で、これはいい公演を楽しめると思いました。管弦楽は少ない人数でもしっかりした演奏で音量のコントロールが絶妙でした。指揮者が大変よかったんだと思います。歌手もスザンナこそもう一つでしたが、それ以外は大変レベルが高い。歌手のビジュアルもすっごくよかった。合唱はあんなものかな。演出は、いまどきでおしゃれでかっこいい舞台でした。謎解きも面白くて、最後もすっきり。物足りないとすれば、もっと変わった演出になるかと思ったのが、そうではなかったことかな。」

B「変わった演出ってなんですか???」

A「例えば、1幕が動物園の檻から始まったじゃないですか。でも檻は1幕だけ。2幕以降も動物が絡むとかちょっと思ったんですけどね。まあ、今回の公演は毒もなく無難に終わったという感じがします。」

B「これで無難とかって、なに言っちゃってんの、この偉そうなオヤジー!」

A「今はもっと衝撃的な演出があって、ネットで公開されていたりするんですよ。そういうのを見てるともっと何かあるかなと思ってしまうんですよね。でも、今回の公演は謎解きしながら単純に楽しめるので、よかったと思います。謎解きも楽しいですから、見終わった後でいろいろ考えてみたらいいと思います。友達と話すのも楽しいかも。」

B「友達いないから一人で考えるしかないってぼやいてましたよねー」

A「うるさい!」

B「それにしても、これ以上に衝撃的ものがあるのかあ、なんか怖いもの見たさで見てみたいかも・・・」

A「ほら、そう思いますよね。だからまたオペラを見に行きましょうねー」

B「はい、またオペラを見に行きましょーねー」