昨日が交際相手の誕生日だったのだが、お互い予定が入っていたので、今日一緒にお祝いをする約束をしていた。


わたしたちのお祝いは、「祝う側の人間が食べたい店」を勝手に予約し、ゴハンは奢るもののプレゼントはあげたりあげなかったりというテキトーな感じでやっている。なにもあげなかった年もあれば、いきなりウン万円のダウンジャケットを渡された年もある。

わたしは相手の誕生日を「背伸びして行ってみたい店に行く日」と決めていて、これまでには江戸前天ぷらのお店に行ってみたり、カウンターのお寿司屋さんに行ってみたりした。年一回の社会科見学的な感じで楽しんでいる。


今年は2ヶ月くらい前から帝国ホテルのバイキングを予約していた。帝国ホテルがバイキング発祥の地と聞いたときからうっすら「いつか行ってみたいな」と思ってはいたのだが、ハライチのターン!でこのバイキングの話を聞いてから、もう行きたくて行きたくてたまらなくなってしまった。バイキングでありながら料理やデザートのひとつひとつがちゃんとおいしい「最強バイキング」なんだそうな。(この回はYouTubeで聞けますが違法アップロードなのでここでは紹介を控えます)


相手にも22日は1日中空けておいて!と通達していたのだが、直前になって出張が入ったそうで、バイキング時間をずらすことになってしまった。ガーンである。ホントはゆったり2時間楽しむはずだったところ、ランチタイムの最後の枠にするしかなく、1時間半しかいられないことになってしまった。いや1時間半もあれば充分おなかいっぱいにはなるはずだが、せっかくの憧れバイキング、それも誕生日のお祝いとなれば余裕のある時間で予約したかった。


なんとか気を取り直して当日を迎えたものの、どうやら線路内に人が立ち入ったとかで新幹線が遅れていた。なんでこんな日に!名古屋で線路に立ち入ったやつを10発くらい殴りたい。

Twitterで情報を得ようとしたが、情報が錯綜していてよくわからない。彼が新大阪を出た段階では5分遅れだったので全然ヨユーじゃんと思っていたが、新横浜・品川で新幹線が渋滞してさらに30分以上の遅延が発生し、結局彼と合流した頃には急いで行ってもバイキングには1時間もいられないような時間になってしまった。ホテルの方には遅刻が決まった段階で事情を説明していたので理解してくださり、今日の予約はキャンセルすることとなった。ホテルには本当に申し訳ない。線路に立ち入ったやつは100発殴っても気が済まない。


前々から楽しみにしていたことだったので、悲しみのあまりなんだかうっすら涙が出てきた。バイキングに備えておなかを空かせてきたので、気が立っているというのもある。まさか三十路になってゴハンが食べられないからという理由で泣くことがあるとは思わなかった。情けなさすぎる。


わたしのあまりの落ち込みようを見て、彼は「俺もめちゃくちゃ行きたかったから残念だけど、今度誕生日とは関係なくバイキングに行こう」とその場で約束を取り付けてくれたり、「大阪のおみやげあげる」といっていかなごの釘煮をくれたりした。

それでなんとか気を取り直して、とりあえずどこかでお昼ごはんを食べようということになった。彼は彼で今日のランチバイキングに備えて出張先のホテルの朝食を食べずに来てくれたので、あらためて銀座界隈のランチバイキングを調べたりしていたが、「わたしはバイキングに行きたいのではなく帝国ホテルのバイキングに行きたいのだ」ということを説明して、近くにあったなんだかよさそうな中華料理屋に入った。中華料理屋だといろんなものをちょこちょこ食べられるのでバイキング感もある。よく知らずに入ったけど、予約している人ばかりだったので人気のお店らしい。ちょっとだけ待って席に通された。


わたしは小籠包とフカヒレ煮込みそば、彼は小籠包と天津セットとチャーハンを食べた。

小籠包ってなんでこんなにおいしいんだろう。蟹と豚肉のスープがぶしゃーっと溢れて、口の中が幸せだった。あまりにうまいのでこれはおかわりまでした。

フカヒレ煮込みそばも、とろっとしたスープに出汁がよく出ていておいしい。

せっかくお祝いだからとビールも頼んだが、極限に腹ペコの状態で飲んだせいで、1杯でふわりと酔ってしまった。


そのあとはメガネ屋に寄ってわたしのメガネを受け取ったり(観劇や試合観戦で使えるように、度のきついメガネを作った)、彼のタバコ休憩を挟んだりしたのち、地下鉄とモノレールを乗り継いで有明に行った。


今年の誕生日プレゼントは劇団四季にした。お互いあまりモノに執着するタイプでもないのと、彼が劇団四季を観たことがないと言っていたので。ちょうど今が新しい演目が始まる端境期なので、個人的にはあまり観たい演目がなかったけど、初めてのひとを連れていくなら王道の演目がよかろうと思ってライオンキングにした。


ライオンキングを観たのは数年ぶりだが、初見じゃなくてもやはりこの迫力には圧倒される。はじめの動物が集まるシーンなんて、自分がアフリカにいるような感覚になる。やっぱり劇団四季は演出も身体表現も歌も演奏も最高だ。観に来て本当によかった。

わたしはムファサ役のひとの声がすばらしくよくてうっとりしていたけど、彼はリトルシンバの子役が1幕を演じきったことにもっとも感動したらしく、幕間でそれを興奮気味に話していた。

2幕のラブロマンスやクライマックスにかけての怒涛の展開もいい。わたしは大人シンバのソロや「愛を感じて」が流れたあたりでうるうるとしてしまった。

カーテンコールが終わってからも拍手が鳴り止まず、観客総立ちのスタンディングオベーションとなり、幕が10回くらい上がった。

彼は帰り際に「劇では泣かなかったんやけど、カーテンコールで泣いたもた…。なんなんやろこれ…」と言っていたが、わたしもそれは身に覚えがありすぎるのでめちゃくちゃ「わかるよ!おかしいことじゃないよ!」と言いまくった。カーテンコールで涙が出てくる現象、あれなんなんですかね。

まだまだ興奮が冷めなくて、「あのシーンのあれが…」とか言い合いながら、ゆりかもめに乗って新橋まで行った。


夕飯は特に予約していなかったのだが、バイキングにありつけずお腹が空いていたので、わたしが好きな立ち飲み割烹に行くことにした。よくよく考えてみれば誕生日に立ち飲みというのもどうかという気もするし、また出張帰りで疲れている人を立たせるのも申し訳なかったが、こちらにも気分や財布の都合があるので問答無用でそこにした。


しまだは新橋の路地裏にある人気のお店。着物を着たおかみさんが季節のお料理を出してくれて、そのどれもがおいしいので季節ごとの楽しみがある。これで椅子があれば最高だが、立ち飲みなのも個人的には敷居が高くなくていい。

筍の木の芽和えや、谷中生姜を巻いたアジフライなど、春の味覚をたくさん堪能した。


店に入るまで「え…立ち飲みなの…」と難色を示していた彼も、おいしかったようで料理をどんどんどんどん頼んでいく。日本酒も進む。ここもご馳走する予定だったけど、「俺遠慮せず頼みたいから割り勘にしようや」と提案されてそうすることにした。


お客さんのほとんど全員が頼むからすみ蕎麦もくせになる味。ここのからすみ蕎麦がおいしすぎて他店で頼んでみたらあまりおいしくなくてガッカリしたことがある。ここのはからすみもくさみがないし、からすみの量もたっぷりでいいおつまみになる。


おかみさんがほかのお客さんに花山椒の話をしているのを聞いて、「今日花山椒あるんだ!」とうれしくなり、すかさず便乗して注文をした。花山椒はごく短い時期にしか食べられず、その希少性からグラム単価で一番高い野菜だと聞いたことがある(本当かどうかは知らない)。山椒好きとしてはいつか食べてみたいと思いつつ、機会がないうえ金銭的にも手が出なかったものだ。今日このお店を選んだのも、「もしかしたら花山椒がまだあるかも…」という淡い期待があったからだった。ついに憧れの花山椒が食べられるとあって、一気にテンションが上がった。メニューにも花山椒は書かれておらず、値段がわからなくてこわい。まあなかなか巡り会えないものだし、誕生日だしよかろう。


注文した段階では花山椒がどういうお料理になって出てくるかがわからなかったのだが、出汁で煮た薄切りの牛肉にふわりと乗せられて出てきた。なんとシンプルな!

パセリみたいな見た目だなと思っていたのだけれど、食感もパセリに近かった。すこしわさっとするような。ただ香りがすごい。山椒の香りが鮮烈にくる。ただ山椒の実ほど尖っていないというか、もっとやわらかい香りがした。同じ山椒でもまた別物で、これは花山椒にしかない香りだと思った。連れは花山椒もうまいとしたうえで「牛肉がシンプルにうまい」と言っていた。それはそう。


さんざん飲み食いしてひとり1万円くらい。結局花山椒がいくらだったのかはわからないままだった。


帰りは花山椒の驚きを語ったり、1日のことを振り返ったりしながら帰った。彼は「劇団四季も、この割烹も花山椒もはじめてだったけれど、どれもよかった」とか、最高の一日だったと喜んでいた。

わたしも予定どおりにいかなくてはじめはしょげていたけれど、結果としていい感じにもてなせたし、わたし自身も楽しめてよかった思う。こういうプランニングをするのもたまにはたのしい。


おつぎはかなさんです。