こんにちは。きのひです。

「駆込み女」 坂岡 真 著 を読みました。

2020年10月18日 第1刷発行











文政(ぶんせい)四(1821)年如月(きさらぎ)の終わり、性質(たち)の悪い風邪(かぜ)が流行(はや)りはじめた。

数寄屋橋御門(すきやばしごもん)内の南町奉行所(みなみまちぶぎょうしょ)では、与力や同心たちが布切れで鼻と口を覆(おお)い、たがいの間合いを遠く取りながら喋(しゃべ)っていました。












布切れを持たずに出仕(しゅっし)してきた者はことごとく、みなから白い目でみられた。

そんななか例繰方与力(れいくりかたよりき)の平手又兵衛(ひらてまたべえ)だけは、白い目など気にするふうでもなく、どこにでもあるような面(つら)を晒(さら)しています。












「『はぐれ』ゆえ、あやつには何を言うても暖簾(のれん)に腕押しよ」と、上役たちも匙(さじ)を投げた。

はぐれとは仲間をつくらぬというほどの意味で、与えられた例繰方の役目はそつなくこなしています。











むしろ、何千にもおよぶ類例(るいれい)をすべて記憶しているので頼りにされているのだが、上役に追従(ついしょう)する器用さもなければ、同輩や下役の同心たちと一献(いっこん)酌(く)みかわす親しみやすさも持ちあわせていない。

周囲からは「くそおもしろうもない堅物(かたぶつ)」と目されていました。











齢(よわい)三十八で独り身。

肌の色が浅黒くてひょろ長いことを除けば、これといって特徴はありません。











その朝、出仕(しゅっし)してきた又兵衛は眼前に聳(そび)える町奉行所の長屋門を見上げた。

黒い渋塗(しぶぬ)りに白漆喰(しろしっくい)の海鼠壁(なまこかべ)。堂々とした門構えは権威の象徴にほかなりません。











又兵衛は右手の小門を潜(くぐ)り、眸子(まなこ)を細めて遠くの玄関をみつめた。

門から玄関の式台までは六尺幅に統一された青い伊豆石(いずいし)が敷かれ、青板の左右一面には那智黒(なちぐろ)の砂利石が敷きつめられています。
















那智黒って、そんな飴ありましたよね。

東建コーポレーションさん「建築用語辞書」によると「那智黒」は粘板岩の破片で出来た砂利で平べったく丸く、黒良色の石のこと。











「黒い小石の代名詞と言える物であり、熊野川の河口に流れ着く那智黒は、さらに太平洋の荒波で丸くなっていった石を拾い集めて、碁石の黒石やすずりにも使われている」

「現在は輸入される物も多くなった一方で、名産地として和歌山県の那智地方や三重県の熊野市などで産出される物はよく知られている」












熊野那智黒石協同組合公式ホームページさんによると那智黒石は「三重県熊野市神川町でのみ採石される特殊な鉱石」

「主に碁石の黒石や、硯石に古くから使われ、粒子の細かい(0.1ミクロン)黒色不透明の砕屑(さいせつ)物からできており試金石として使用されてきました」












碁石には黒石と白石がありますが、白石はどんな石なんでしょうか。

「中川政七商店の読みもの」さん2020年1月5日に「世界が認める碁石の最高峰。宮崎にだけ残る『ハマグリ碁石』とは」が。











碁石の最高峰「ハマグリ碁石」

「碁石には白石と黒石がありますが、実は、高品質とされるものはそれぞれ原料が異なります」











黒石は、三重県熊野の那智黒石から作ったものが最高級品。

一方、白い碁石の原料は「石」ではなく「貝」











「ハマグリで作った『ハマグリ碁石』は縞目の美しさ、柔らかな乳白色の輝き、手に馴染む重量感などが素晴らしく、白い碁石の最高峰として世界でも人気を集めています」

このハマグリ碁石の産地として名を馳せたのが、宮崎県の日向(ひゅうが)市。












南北4キロメートルに渡って続く大きな海岸「お倉ヶ浜」では、かつて浜一面にハマグリの貝殻が打ち上げられていたとか。

日向のハマグリは寿命が14,5年だと言われている。





寿命をまっとうしたハマグリが、埋まっていた海底や砂浜の中から大波や台風によって浜に打ち上げられ、それを人々が拾いました。











碁石は白石を180個、黒石を181個、それぞれ同じ形・厚み・グレードで揃えないと商品にならない。

原料となるハマグリから取れる最大の厚みを見極め、寸分違わぬ精度で碁石の形に削り、磨き上げていくのです。





「碁石職人の技術には本当に驚かされます」












「4,50年前の時点で、日向ではほぼハマグリが採れなくなり、絶滅に近い状態です」

現在、流通しているハマグリ碁石はほとんどがメキシコ産のハマグリを使用している。











「そのメキシコ産ハマグリも、安定して輸入し続けられる保証はどこにもありません」

「ハマグリ碁石製造の技術・文化を途絶えさせないために、またハマグリ碁石を求める囲碁愛好家たちの期待に応えるために、できることをやるしかない」












ハマグリの養殖ってむつかしそうですもんね・・

それにしてもハマグリの貝殻って碁石以上に分厚いってことですよね。











ハマグリがそんなに長生きで貝殻がそんなに分厚くなるんだとは。

碁石が石ではなく貝殻から作られていたとは・・いろいろびっくりでした。