こんにちは。きのひです。

「風の市兵衛」 辻堂 魁 著 を読みました。

平成22年3月20日 初版第一刷発行

平成22年12月20日 第五刷発行












北町奉行所定町廻り方同心・渋井鬼三次(しぶいきさじ)は、早朝の湯屋にいる。

八月も半(なか)ばになって秋の気配が濃さを増し、朝夕がうんとしのぎやすくなりました。











早朝の男湯は仕事に出かける前にひと風呂浴びにきた商人や職人らで混んでいた。

渋井は脱衣所で濡れた身体(からだ)を拭(ぬぐ)い腰へ下帯を巻き付けぎゅっと締(し)めました。












肌着に麻の単(ひとえ)を着流し、中幅の博多(はかた)帯を廻した。

刀掛けの二本を取ってざっくりと差したとき、入口の引き戸が勢いよく開いて人が飛びこんできました。











「旦那、富松(とみまつ)町の自身番からすぐお越し願いてえと、使いでやす」

手先の助弥(すけや)が渋井を認めて歯切れのいい声を響かせた。












「神田川で死体が二つ、あがりやした」

「わかった」渋井は口をへの字に結んで頷(うなず)きました。











神田川に架かる新(あたら)し橋から浅草(あさくさ)御門の方向へ半町(約54メートル)ばかりいった柳原堤下(やなぎわらつつみした)の川縁(かわべり)に、人だかりが見えた。

渋井は堤の途中から雁木(がんぎ)をおり、切岸の川縁を人だかりへ近付いていきました。















ところで「雁木」 ながれでいくと「階段」のことでしょうか。

「鞆物語(ともものがたり) 日本で最も癒される港街、鞆の浦」さんの記事に「鞆の浦の観光スポット雁木」がありました。












「潮の干満に関らず船着けできる石階段、それが雁木です」

満潮時には最上段が岸壁となり、干潮時には最下段が荷揚げ場となる。











「雁が飛ぶさまに似ていることから『雁木』と呼ばれるようになったんですね」

「最上段には明治から昭和期に作られた円柱形の船繋石(ふなつなぎいし)が等間隔で並んでいます」












上越市さんの「公文書センター」には「雁木の話あれこれ」があります。

それによると「雁木とは主屋(おもや)に付属する下屋(げや)のこと」











(ちなみに「下屋」は東建コーポレーションさんによると「母屋の屋根より一段下げた位置に取り付けられた片屋根、またはその下にある空間のことである」)











前面道路に接して庇(ひさし)を設け、それが町並みに沿って連続して雁木通りを形成し歩行者用の通路となっている。

雪国で雁木が途切れず連続してあることで、住民は降雪時に恩恵を受けることができました。














「雁木」は将棋でも使われる言葉です。

「将棋講座 ドットコム」さんによれば雁木とは「将棋の囲い」











雁木は主に相居飛車で現れる囲い。

2枚の銀を三段目、2枚の金を二段目に配置することで、上部からの攻撃に対して耐久力のある囲いとなっています。











そして世界大百科事典さんによると「雁木」は「雁の群れが空を飛ぶ形のように、ぎざぎざの形のものの称」











それにしても一つの言葉に、これほど多くの違う意味があるとは思いませんでした。

雁の群れが空を飛ぶ姿はそれほど印象的だったということでしょうか。