こんにちは。きのひです。

「夏の戻り船」 今村 翔吾 著 を読みました。

2018年12月18日 第一刷発行











夜半、阿部将翁(あべしょうおう)は目を覚ました。

闇の中、手探りで水差しを探します。











椀(わん)に注ぐこともなくそのまま口を付けて喉を潤している途中、むせて布団や畳に水を吐き散らしてしまった。

「いかんな・・」











己が余命幾許(いくばく)も無いことは解っています。

三年ほど前から頻々(ひんぴん)と激しく咳き込むようになり、時に鮮血を吐くこともあった。












若い頃から無茶ばかりしてきたが、三年前まで大きな病をしたことはありませんでした。

今死んだとしても八十八まで生きたのだから大往生というものだろう。












生涯独り身で妻子はいません。

今は四十絡みの下男とこぢんまりとした屋敷に住んでいる。











目が闇に慣れ、天井の木目が薄っすらと見えて来た。

急に胸が締め付けられました。












己の一生でやり残したことにようやく気付いたのだ。

躰が思うように動く間にどうして思い至らなかったのか。











翌朝、将翁は己の古巣である小石川薬園にむかいました。

園内にある養生所の医者である小川笙船(おがわしょうせん)に会うためです。




笙船は優れた医者である以前に賢い男である。











「失礼」笙船は将翁の腕を掴むと脈をとりました。

「どうだ」





「一年・・・いや、半年と少し持てばよいかと」











将翁自身の見立ても同じでした。

「儂には行かねばならぬところがある。しかももう時が無い」



「力を貸して欲しい」











「しかしどこに行くおつもりで」

「陸奥(むつ)だ」



「そのお躰では・・・」












たとえ途中で死すとも悔いを残したくないという将翁に、唸って暫く考えていた笙船は真っすぐ見つめてきて言いました。

「ふむ・・・お力添えいたしましょう」











「命を短くする頼みを、医者にするのは申し訳ないが」

「患者の想いを全うさせるのも医の道です」にこりと笑った笙船が声を潜めて言いました。




「先生、くらまし屋をご存知ですか」












この江戸には金さえ積めば、いかなる者も晦ましてくれる者がいるという。

手順はこうである。











雷門(かみなりもん)に程近い飴細工の出店を訪ねる。

そこでまず猫の飴を注文し、断られたら改めて獏の飴を頼む。




これが依頼の意を伝えるやり方だといいます。

















獏って夢を食べてくれるんでしたっけ?

動物園にいるバクとは違うときいたような。











和樂 web さんの記事に「悪霊と関係?バクが夢を食べる謎を解説」がありました。

馬場紀衣さんが書かれたものです。












「バクが夢と結びついた背景には、古代人が憂いた悪霊の存在が関係している」

「この獏・バクという生物は、古から人びとの夢を守ってくれていたのである」











昔の人は枕に獏の図や「獏」と一字を書いたり、枕の下に獏の字の版画を敷いたりして眠ったといいます。

興味深いのは、中国の獏は夢を食べなかったということ。





獏は日本に渡ると、なぜか夢を食べるようになってしまった。











「バクにまつわる逸話は多い」

「バクはタイ語で『まぜ物』を意味するが、神様が動物を創造したときに、最後に余った材料を繋いで作ったのがバクということらしい」











鼻は象に似ているが象より短く、サイに似た体形で、前足は4指なのに後ろ指はなぜか3指しかない。

「外側だけでなく内側も不思議な作りになっていて、胃腸は馬に似ているのに肺は牛にそっくりときている」











静岡市立日本平動物園さんにも動物紹介の中でマレーバクの記事がありました。

「マレーバクは哺乳綱 奇蹄目 バク科 前肢には4本、後肢には3本の指がある」











「バクは『万物創造の神が色々な動物を製作し後の残ったパーツを捨てずに一つの動物を作った動物であり鼻は象、目はサイ、尾は牛、トラの足、体は熊のものを使った奇妙なものである』」

「『夢を食う』という伝説は中国の唐(618年~907年)の時代の頃、今から1300年前頃、バクの皮は邪気を避けるとして寝具などに使われ、びょうぶにバクの絵を描いてというところから想像上の獣で悪い夢を食べるという話が出たのかもしれない」












Pacalla さんの記事では奇蹄目の動物について書いてありました。

なんと現存する奇蹄目は、ウマ科、サイ科、バク科の3科のみなんだそうです。





シカ、キリン、ウシ、ヤギ、ヒツジなどのウシ亜目の繁栄に押され、どんどん衰退してしまった・・












前肢の指が4本なのにバクが奇蹄目になっているのは、もしかして少しでも奇蹄目の動物を増やそうとしたから・・・なんてまさかね。