現代韓国演劇2作品上演のひとつ、

「最後の面会」を観劇しました。



◇10/5(土)  13:00  北沢タウンホール

                                  下北沢小劇場B1





「最後の面会-オウム真理教事件-」

◇ハヤシヤスオ   山口眞司
◇ナオコ    佐藤あかり
◇ヤスオ    奥田一平
◇エイコ    佐藤あかり
◇父            高井康行


【アフタートークショー】

劇作家  キム・ミンジョン
演出    桐山知也
翻訳/通訳   シム・ヂヨン
MC 


名取事務所による
現代韓国演劇の上演です。








本作は1995年3月20日に起きた
「地下鉄サリン事件」から着想した
フィクションです。


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舞台にはアクリル板で仕切られた面会室。
両サイドに細長いスクリーンで
事件当時の地下鉄や現場の様子が
映し出されます。

1995年。
若き日の林泰男(奥田)が、
コンビニ袋(中身はサリン入りの袋3つ)
と傘を持っている。
「これさえ手に持っていなければ
ずっと歩いていられるような気がする
桜の咲く3月」という独白と、
「ヤスオ!」と自分を呼び止める
亡き父の声を内に聞きながら
日比谷線に乗り込み、
落とした袋を傘で突く。

2017年。
死刑囚林泰男(山口)の元に
被害者の遺族だと名乗るナオコ(佐藤)が
面会に訪れる。

なぜオウム真理教に入信したのか。
なぜ麻原を信じたのか。
なぜ殺人が救済に繋がるのか。


ナオコの質問に林が答えるのだが
どんな回答も彼女は納得ができない。


「オウムに出家して
連絡が取れなくなった親友を救うために
教団を尋ねてきたエイコ(佐藤2役)という
女性を覚えていますか」

とナオコは元信者の女性と林の関係に
踏み込んでいく。


カルトに入信するということ。
厳しい修行を経て自己を救済すれば
更に他の人も救済できると説かれること。
「おかしい」と気付いた時には
すでに「おかしい」と言えない状況に
あったということ。
自身を日本人だと信じていた林が
在日韓国人であったという背景から
「信心にも疑いを持たれるのでは?」
という恐れがあり、他の実行犯より
多くのサリン袋を散布するという行動を
申し出たということ。
元恋人が「林は賢くて優しい人だ」と
繰り返し言っていたこと。
「怪物」と書かれた手紙のこと。


そして
ナオコが死刑囚林泰男に接触した
本当の理由。


ドラマティックでありながら、
芯の深い作品になっておりました。


ここで注目すべきは、
日本で起きたこの事件を
韓国の劇作家が戯曲に書き上げたこと。
日本人が書くと
おそらく題材の触れ方に躊躇しすぎて
ここまで書けないのだろうと思われるし、 
(日本人にも書いていただきたいけど) 

しかし
本作は問題を正面から取り上げながら
デリケートに扱い過ぎないフィクションに
仕上げた手腕が素晴らしいと思いました。

ともすれば、
「在日韓国人であった信者が
日本の地下鉄でサリン事件を起こした」
という短絡的な怨恨や誤解を
産み落としかねないエピソード。

それを
「決してそうではない、
しかし在日であるという生きづらさも
確かに彼にはあった」という
人生の落とし穴はなにも特別ではない、
誰でも地続きにカルトは存在するのだ
という事も含めて
犯罪の社会的要因と個人の内的要因が絡む
複雑さを考えさせられました。


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アフタートークでは、
劇作家のキム・ミンジョンさんの、

高校の物理の先生がカルト信者で
授業中によくその話に脱線していた事や
従姉がカルトに入信の末
自殺してしまった事、

ナオコというキャラクターについて
二通りの描き方からこちらを選んだのは
実話にプラスして虚構を乗せる時に、
よりインパクトのある方を選んだという話、
そして再演されても
今回のオリジナルを選びたいという話も
非常に面白かったです。


私もラストシーンを見て、
ナオコは光のある外の世界へ向かい、
林が絞首台に向かう結末から、
ナオコの正体は今回のオリジナルの方が 
(ナオコには重すぎるのですが…)
余韻や課題を残していいなと
と思った次第であります。


各地の小さな劇場で
ぜひ上演していただきたい
おすすめの作品です。


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10月の観劇は
ミュージカル作品ではなくて
演劇強化月間のようなラインナップです。


「最後の面会」
「少年Bが住む家」 
「ピローマン」
「芭蕉通夜舟」


意図したわけではなく
たまたまなのですが、
どれも力作ぞろいです。