読書記録です。


「アタラクシア」金原ひとみ  集英社





第5回渡辺淳一文学賞受賞作品です。


元モデルの翻訳家由依は、

パリ在住の頃知り合ったシェフ瑛人と

不倫を続けている。


由依の夫の桂は小説家。

妻を愛していながら

彼女の真意を測れない。


瑛人の店のパティシエールの英美は

浮気をして帰らない夫と

問題行動の多い息子と

実母との生活に疲れ、


由依と桂夫妻の友人で

編集者の真奈美は

経済力のないミュージシャンの夫と

同僚のイケメン社員荒木、

二人の男がいることで

自分の均衡が取れているような

毎日を生きている。


配偶者以外の異性との時間を持つ事で

心を保とうとする人々の物語です。



「アタラクシア」という言葉の意味は

心の平静不動なる状態、

乱されない心の状態、

激しい情熱や欲望から自由な

平静な心の様、だそうです。



意味は解っても、

日本語に置き換えると

どんな単語になるのだろう。

どんな例文で使われる言葉なのだろう

と気になりました。

「アラタクシア」…

呪文のような不思議な言葉です。



そうして読み終えた小説は、

由依、真奈美、英美、枝里、

瑛人、桂、荒木…と

登場人物の名前がつけられた各章で

心情が細やかに綴られております。 


おそらく

主人公は美しい由依ですが、

元モデルで翻訳家で小説家の妻で

フランス料理の店を経営するシェフの

恋人がいる彼女より、

私がなにより共感しながら

気になるのは

パティシエールの英美でした。


渡辺淳一文学賞受賞作品ですから、

恋愛小説なのだろうなぁと

思いながら手に取りました。 

なるほど由依が瑛人と

爽やかにデートする場面から始まり、

様々男女たちに心揺らぎ…

うんうん恋愛小説っぽい照れ

読み進むと物語が進行するなか、

急に英美のパートだけが異質なのです。


パリにいた頃…

パーティーに出席…とか

元モデルで翻訳家…

由依のふわふわキラキラした

生きづらさを語る作品中に、

夫は浮気三昧、実母とは馬が合わず、

共働きで息子には手が回らず

「家族なんて死ねばいいのに」

と思うほどくたくたの英美がいる。


由依より真奈美より誰より

彼女のアタラクシアの行く末が

とても気になりました。