読書記録です。


「ミ·ト·ン」小川糸(文) 平澤まりこ(画)







両親兄弟家族に愛されて育つ
マリカの暮らすルップマイゼ共和国。
女の子は小さな頃から編み物が身近。
おばあさんから手ほどきをうけて
マリカもミトンを編み始める。

初恋をしたマリカは
青年ヤーニスに
ミトンをプレゼントする。
それは言葉の告白の替わりで
ヤーニスがミトンをはめてくれたら
気持ちを受け入れてくれた証。

幸せなふたりは森で仲睦まじく暮らし、
マリカは優しいヤーニスが
日々増して好きで好きでたまらない。

でも氷の帝国が
幸せなルップマイゼ共和国を支配して。


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ルップマイゼ共和国のモデルは
ラトビア共和国。
氷の帝国はソビエト。
マリカという女性の一生が
愛らしく心に広がる一冊です。


豊かな森に恵まれた精霊の国。
ルップマイゼ共和国に出てくる
白樺ジュース、お花のお茶、パン、
栃の実胡桃、どんぐりコーヒー…
湖のお散歩そしてミトン。
全てが愛おしくなる作品でした。


でも特筆すべきは
人々の愛らしさや
ゆったりとした優しさ
のどかで丁寧な暮らしを一変させる、
氷の帝国にヤーニスが連行された後の
悲劇的な展開に寄せる
マリカの生き方です。

夫の身を案じて祈るように編み上げて
送り出した、そのヤーニスのミトンが
5年後に泥だらけで片方だけ
マリカの元に郵送されてくるのです。

ここで彼女は
彼がもう生きてはいないと
思うのではなく、
このぼろぼろの片方のミトンこそ
彼が生きている証だと
食卓を料理でいっぱいにしたり、
誕生日を祝い…そして。


その後に
もう料理を多めに作る必要はないのだと
森で悟る気持ちの変化にも、
私が思い至らない目から鱗のような
なんてしなやかで
清らかな思考なのだろうと
マリカの、ルップマイゼ共和国の
美しさに感動するのです。

森羅万象のどこかに
姿形は違っても息づく夫は必ずいる。
だから共に生きて共に朽ちる。

家族とは、
皆で幸せになりたいと願うけれど
それでも
時代や運のめぐり合わせで
共に見舞われた不幸せな中でも
ぬくもりを探して
いたわりあうことができたらなら、
すばらしい一生になる。

そんな事に気付く小説でした。