「Mバタフライ」を観劇しました。


6/29(水)ソワレ 新国立劇場小劇場

    1階C1列






ルネ・ガリマール/ピンカートン…内野聖陽
ソン・リリン…岡本圭人

ヘルガ…朝海ひかる
チン同志/他…占部房子
女ルネ/ピンナップガール他…藤谷理子
トゥーロン/裁判官…三上市朗
マルク/シャープレス他…みのすけ
アンサンブルダンサー…南部快斗・新井健太



1980年代のフランス、パリの刑務所。
元外交官ルネガリマール(内野)は
国家機密漏洩の罪で投獄されている。
独房のラジカセから流れる蝶々夫人。
彼は投獄にいたる半生を語る。

1960年代の北京。
フランス大使館に赴任した外交官ルネは
晩餐会で京劇の女優ソン・リリン(岡本)
と出会い、
東洋人の慎み深い美しさに魅了される。

人目をしのび、二人は逢瀬を重ねるが、
実はソンは中国共産党のスパイで
ガリマールを利用して
ベトナム戦争における米国の動向を
事前情報入手する。


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ちょっと内容に触れますので、
詳しく知りたくない方は
お読みにならないでくださいね。




このMバタフライには
モデルになった実話があるそうです。
「シーペイプー事件」です。
1960年代に
20歳のフランス外交官が
京劇女優シーと恋仲になり機密情報を流す。
なんと逮捕されるまで20年共に過ごし
シーが男性だと気が付かなかったびっくり
二人の間には子どももいて。
(もちろん子どもは外交官の子ではなく
シーが中国で用意した子どもを
自分の子だと信じていたらしい)


舞台美術は
コンクリート色の階段を斜めに配した
2段構造のシンプルなもの。
隙間にベッドなど収納されており。

岡本圭人さん。
静止画、動画を事前に見て、どう見ても
男の子の女装にしか見えないけれど、
これ20年女性だと思い込むって…キョロキョロ

手術してるとかじゃないの、
ホントに男の身体のまんまだったのに!

と心配しておりましたら
登場はやはり男の子の女装にしか
見えませんでしたが、
二人の芝居が始まると、
まぁなんて気高く慎ましやかな
美しさなのでしょうびっくり


私はたまに
新派のお芝居に伺うことがあり
その一番のお目当ては
元春猿さん河合雪之丞さんを拝見する
ことなのですが、
美しいったらその色香ラブ
女性そのもの…ではないのですが、
そのものではないにもかかわらず
その存在にうっとり見惚れてしまうのです。

圭人さんのソン・リリン、
キャリアに女形をされた訳ではない
まだ若い俳優さんですのに
この雪之丞さんのような
見惚れる気高い色香はブラボーでした。


ひょっこり登場する
みのすけさんの軽妙な芝居も楽しく、
朝海ひかるさんはただただ美しくラブ
裸を見られることを厭わない女も
たまにはいい、とガリマールに言わせる
藤谷さんの軽やかなお芝居や
身のこなしも良かった。


チン同志の占部さんは
キャスティングを知った時から
お顔立ちなど江青氏にぴったりだなぁ
と思っておりました。
江青氏の御役ではありませんが
共産党員が本当にお似合いでした。

上司役トゥーロンの三上市朗さんは
裁判官も演じます!

何のために公表?
いえ裁判官の役もするよ〜って
頭に入れておいた方が
「あ、いま上司じゃなくて裁判官なのね」
って理解早いかなぁと。(笑)



内野聖陽さん。
出ずっぱりで膨大な上に長台詞。
この酷暑の中の熱演。
流れる汗。
想像はしておりましたが大変な作品です。

Mバタフライを
よく知らずに観たのですが、
不倫した上に愛ゆえ罪を犯す外交官って
言うから勝手に、
カッコいい男がどうしようもなく
ぼろぼろに堕ちてゆく愛しさと切なさと
熱情的な芝居が見られるのねラブ
と思いきや。

どちらかと言うとよれよれの中年男。
過去にモテた試しもなく、
最初から冴えない男…
という設定でございました。
「よれよれで冴えない」なら
それを全力で演じる方なので
ホントにカッコよくないのよ…笑

どうも私、
カッコいい内野さんがみたいのかしらね。
(どんな内野さんでも好きだし
ステキだから良いのですけどね爆笑)


この作品はとても深くて
一度見ただけでは
あらすじを追うことしかできません。
もちろん一度であらすじが理解できて、
お芝居が堪能できたら十分なのですが、
もっと知りたくなる戯曲なのです。


この中国のスパイ行為は
西洋人が東洋人女性の慎ましさを
実態以上に崇めた点、
(東洋人は明るさの中で全裸にならない、
身体を見せない触らせない、
性行為で女性は着衣のまま肌を露出しない等)
を利用して成功したのですが。
(ねぇウッチーそんな訳ないやん…?
どんな純真ボーイよキョロキョロ)

それだけではなく

ガリマールとソン。
愛したソンが男であったと解った慟哭。

ガリマールは東洋人女性ソンを愛したが
ソン自身は愛される自分の性認識を
この20年間のうち、どう捉えていたのか。
気持ちに変化はあったのか。

ソンがガリマールに
「自分は男だ」
目の当たりに認識させたのは
覚悟の決別なのか、
究極の愛の告白なのか。


西洋人が東洋に抱く不思議な幻と
主客転倒な蝶々夫人へのオマージュ。
「ガリマールの脳内劇場」
という紹介もありますが、
とにかく
考えどころ満載の作品でありました。


もう一度観劇する予定です爆笑


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別に私が
カッコいい内野さんを見たいからって
綴るわけではありませんが、
ただ「対比」を考えるとですね…。

当時の世相として
(下地に蝶々夫人があると考えても)
強者側であるフランス外交官と
弱者側である東洋人女優。


20年のうちに形勢逆転する物語。

だとすると。

日本人である内野聖陽さんが
強者側フランス外交官を演じるのに
なにも最初から最後まで
全力でイケてないヨレヨレ中年男性で
なくてもいいのになぁと思った次第です。


欧米の俳優さんはヨレヨレを演じても
日本人にはないカッコ良さがあるでしょう。

だから
今回の内野さんも
裁判で対峙した後のヨレヨレと
外交官時代の対比があっても
良かったのかなぁと…。


全員日本人キャストで演じるなら
「西洋と東洋の対比」
「幻想を崇める」
「男と女」
「幻が崩壊するとき」
Mバタフライという作品は
演出にも視覚的にも
もっと突出した仕掛けがあった方が
嬉しかったかも。
(仕掛けは色々あるのよ、あるけれど…)


好きだから…勝手な独り言です。