4月に観劇した「ハムレット」です。

キャストはこちらです。

内野聖陽 ハムレット/フォーティンブラス他
貫地谷しほり オフィーリア/オズリック他
北村有起哉 ホレイショー
加藤和樹 レアティーズ/役者たち他

山口馬木也 ローゼンクランツ/バーナード他
今拓哉 ギルデンスターン/マーセラス他
壤晴彦 ポローニアス/墓掘りの相棒他

村井國夫 墓掘り/役者たち/コーネリアス他
浅野ゆう子 ガートルード他
國村隼 クローディアス/亡霊ほか

演出 ジョンケアード
音楽 藤原道山



ロビーには、
舞台美術やパンフレット、ポスターにも
使われている藍色の巨大壁とポスター。


戯曲を解りやすい台本にした上に
上演時間も短くとはいえ終演まで
3時間20分かかります。


ソワレだと22時20分終演でした。

舞台美術は、
能舞台のような正方形を斜めにした
八百屋舞台です。
とてもシンプルです。


舞台上の下手にも客席があります。

音響効果は、
藤原道山氏の尺八演奏と雷鳴と波音のみ。

日本人俳優が日本語でシェークスピアの世界を
研ぎ澄まされた和の効果で
膨大な台詞劇を表現する濃密な舞台でした。

ロビーの巨大壁の藍色や
墨色、土色を上手く使い、衣裳も白ベージュ
などアースカラーが印象的でした。

デンマークのエルシノア城。
王である父親(國村隼)の死後、
王妃の母(浅野ゆう子)と早々再婚し
王位を継いだ
ハムレットの叔父のクローディアス。

息子ハムレット(内野聖陽)は、
父親の死を受け入れられず茫然自失の時に、
父親の亡霊から
「自分は弟クローディアスに毒殺された」
と驚くべき告白を聞く。

ハムレットは親友ホレイショー(北村有起哉)
に、自分は狂ったふりをして
父親の死の真実を明らかにすると話す。
そして、
恋人オフィーリアにも「尼僧院へ行け」と
別れを告げる。

ここから
ハムレットの思わぬ殺人と
クローディアスの陰謀と
狂気に散るオフィーリアと
レアティーズ(加藤和樹)の復讐を逆手にとった
デンマーク王室の一掃の悲劇が
繰り広げられます。

この長編の戯曲を
汗、涙、響く声で演じて生でみせてもらえる
贅沢な時間といったら。

この「ハムレット」の戯曲は、
いかようにも演出できそうで、
上演の度に私が興味あるのは、

①ハムレットの狂気の程度とか、

②そもそも
本当に父親は叔父に毒殺されたのか、とか

③母親ガートルードの母性と女性の狭間具合
④オフィーリアの可憐さ
⑤清廉潔白なレアティーズの妹愛とか。

見所がたくさんある戯曲です。

今回だと、
①内野聖陽さんハムレットは狂気というより
状況を受け入れられない息子という印象。

父親の死も母親の再婚も
叔父が新しい父親になることも
受け入れ難い内野ハムレットが、

父親の亡霊の「毒殺された」の告白によって
受け入れられない状況が「許されるのだ」
という免罪符と共に話が動いていくようでした。
序盤の独白から早くも内野さんらしい、
流れる汗と涙の熱演でした。
ノルウェー王子フォーティンブラスとの2役
もファンにとっては嬉しい演出です。
病むハムレットから
颯爽としたフォーティンブラスの役変わりが
鮮やか。
内野さんの1作品2役は私本当に好きです。
昔の映画「あかね空」でも見事でした。

②先代王の死も、
これはクローディアスの独白から
「兄弟殺しの罪。
汚らわしき我が殺人で手に入れたもの…。」
この台詞からおそらくそのとおりでしょう。
この時代なら夫の死後、
その兄弟と再婚することも珍しいことでは
なかっただろうし、
王妃ガートルードの処し方も
不思議ではありませんが、

王妃の寝室に息子ハムレットがやってくる場面
は錯覚しそうです。
王妃「何をするの!」
(私を殺すの!?の意味ですが
浅野ゆう子さんの背後から迫る内野聖陽さん
の二人だと年齢差が母子に見えずに
完全に男女。
何をするの!の意味が違って聞こえます。
二人とも(特に内野さん)過剰に色気がある。
三田佳子さんくらいの女優さんで見たかった)

ハムレットが許せないのは、
叔父クローディアスだけなのか、
受け入れた母親もなのか。

毒殺された先代王は、
クローディアスには復讐を
息子ハムレットに母親は守れというが、
喪もあけないまま嬉々と弟を受け入れる妻は
許せるのか。
男女、親子、兄妹、様々な人間の本質を
想像できる作品です。

内野さん加藤さんの長刀の殺陣も見所の一つ。
それに壤晴彦さんの卓越した台詞術。
ラスト光の中に消える内野さんと國村さんの
荘厳な美しさ。

水を打ったように静かな劇場から一転
ため息と共に拍手が響くカーテンコールと
緊張から放たれるキャストの表情までが
感動の豊かな舞台でした。