「あわれ彼女は娼婦」新国立劇場

6月15日のマチネで観ました。






兄妹近親相姦と復讐の話です。

タイトルから、兄と禁忌を犯した妹が
娼婦に身を落とす話みたいですが
違います。

「whore  娼婦」という単語は、
このタイトルでは、
夫以外の男性と性的関係をもった女性への
蔑称として使われています。

この作品では、
婚姻前から兄と肉体関係もつ、
今なら未成年者の淫行にもあたります。

そして、もちろんこの舞台、
当時は娯楽作品であっても、
400年も前の戯曲なので今は娯楽作品と
いうより古典、演劇のテキストのような
作品です。


中世イタリアのパルマ。
兄ジョヴァンニ(浦井健治)は
美しい妹アナベル(蒼井優)への道ならぬ
情愛に苦悩していると修道士に告白する。

そして修道士の忠告も聞かずに、
兄は自分の想いを妹に伝え、
妹も嬉々として受け入れ
兄妹は男女の関係に身をやつす。

妹は兄を愛したまま、
貴族ソランゾ(伊礼彼方)と結婚し、
腹に兄の子を宿す。

この過ちにさまざまな人間が巻き込まれ、
血で血を洗う凄惨な出来事が起こります。





古典は
長い歴史の中で既に完成されたもの。
作品にも人物にも傾倒しないように、
舞台やキャストの感想を綴ります。

舞台は、少し下手側にふった赤い十字架の
ような八百屋舞台。
照明は終始暗めです。
クラシカルで美しいです。


音響は上手の客席寄りにマリンバ1台。

メロディと和音を奏でられる
この打楽器マリンバがいいんです。

胸の鼓動や抗えない悲劇が
ひたひた忍び寄る雰囲気を
このマリンバ1台の効果で表現します。

1階席中央下手寄りでしたが
序盤、キャストの台詞が
しっかり聞き取れずに心配になりました。

声量が足りないのではなく、
声が太くハウリングする声質のキャストの方はもう少し速度を落として
発声して下さるとありがたかったです。

浦井さんだけかな、と思ったら、
文学座の横田栄司さんでも聞き取れない所
があって焦りました。

乳母プターナの西尾まりさん、
グリマルディの前田一世さん、
バーゲットの野坂弘さんは聞き取れました。

声の的が鋭く細い質の役者さんは、
早口でも聞き取れるのです。

それでも
話はわかるので問題ないのですが、

この古典の戯曲は
叙情詩のように台詞が美しいので、
私はとても欲張りで
一言も聞き漏らしたくないのです。

邪道だと言われそうですが、古典の戯曲は
字幕つきで見たい、と思うくらい
台詞を大切に感じたいのです。

耳が慣れてきて2幕からは、
大丈夫でした。

兄ジョヴァンニの浦井健治さんと
妹アナベルの蒼井優さんは美しくて
眼福でした。

ソランゾの伊礼彼方さんは
見栄え素晴らしく貴族がはまり役でした。

その召使いヴァスケス横田栄司さんは、
全身黒の衣裳とマント姿も精悍で素敵でした。
最後まで生き残り、
物語を牽引する役柄で
ラストに重要な台詞があります。

タレントのりゅうちぇるさんのような
愛すべき愚息バーゲットも
乳母プターナも良かったです。


パンフレットには、
エリザベス朝演劇の歴史年表や
大学教授の詳しい解説など観劇前に
熟読しておきたいことが書かれています。

400年前のヨーロッパの人々が
熱い興奮で何を思い、
人間の業を背徳を復讐に熱狂したのか、

もっともっと貪欲に感じたい舞台でした。


西洋文学の歴史や演劇を志す学生さんに
最適なテキストになるエリザベス朝演劇の
上演。


私は学ぶ学生でもありませんが、
たまには高尚な気分で
古典作品もいいものです。