頬粘膜癌、術後4日目の2。
看護婦さんがいい匂いとかそういう話ではありません。
あしからず。
(そうか、”悪しからず”という言葉なんだな と脱線)
病人の匂いがするなぁ
自分から
マジかっ
結構ショックだ。まぁ普通は誰も自分から病人臭が発生する日がくるとか、そんな予定を考えて生活してる人なんていませんけどね。
我が家は、僕と妻、妻のおかあさん、長女の4人で暮らしています。長男と次男はもう独立して家を出てくらしてる。(今気づいたけど、今ってうち男って僕だけなの?そっかぁ、なんとなく発言力にパワーがないと感じていたのは数的優位を得られてなかった事が原因だったのか・・・・・・)
それで、お母さんがまぁご年齢もそこそこで間質性肺炎とかなのでいろいろ薬が処方されまくっている訳だ。朝のトイレラッシュ時に前の利用者の方の残り香があることだってそりゃあるわけでおしっこの後なんかはお薬の匂いがする。
今、僕は飲んでる薬自体は多分トラマールだけなのかな。と思うんですが1日4回まできっちり飲んでるとやっぱりおしっこは薬の匂いがするね。
でも最近僕が感じている”病人臭”ってのはそんなのとはちょっと違うのである。
薬の匂いもあまり良い匂いとは言えないが、それはちょっと科学的な匂いというか作り物っぽい匂いだ。
僕が言う”病人臭”ってのはもっと生っぽい匂いである。
元来、臭気というのは非常に強く記憶と結びつく性質のものであろうと認識している。懐かしい記憶には必ず匂いが共存するというのが僕の持論だ。昔、アマチュア小説もどきを書いてた時も、そこかしこで匂いの事をほのめかしたりした。それはきっと冷たい文字というものにほんのすこしの温かみとリアリティを加えてくれるんじゃないかと思っていた。
もうちょっと脱線すると、僕の父は10年以上前に肺がんで死んでいる。
看取りは自宅だった。病院での療養とかに耐えられるような普通な人じゃなかったので、母がほとんど看護して(近くの大きな病院の訪問看護と訪問医療を限界まで融通してもらった)本当に死ぬ直前くらいまで好き勝手にウィスキーを舐めたり好きなものを口にしながら最後を迎えていった。星一徹のような人だった。漫画に出てくるちゃぶ台返しなんて日常茶飯事だった。
おっと、脱線が過ぎるな。その父がなくなる時もたしかに多少病人っぽい感じの匂いがしてたのかもしれないがそんなに気にならなかった。つまりそんなに匂いは感じなかった。
ところが、毎日しょっちゅううがいをするんだけど、この口から吐き出した水が酷い匂いなのだ。なんて言ったらいいんだろう、少し甘みのある匂いと、鉄の匂いと、なにかよくわからない体の組織が破壊された(それは例えば脂肪細胞だったり壊死した細胞達だったりなんだろうか)匂いだ・・・・・・と思う。
とにかく、僕はそれを病人の匂いだと最初に嗅いだ時に認識した。本当は知らないはずの匂いなのに知っているような気がする匂いなのだ。
すごくわかりにくい話になっているとは思うけど、これはじきにわすれ平気になってしまう類いの事なので記録しておこうと思ったわけだ。
死人の匂いとか死体の匂いとかとも、特段そういう経験がある訳じゃないから僕の臭気ライブラリーには入っていないのでわからないが違うような気がする。
だから病人の匂いなのである。
これがね、いやぁな匂いなんだ。
ちょっと胸が悪くなるような肉とか脂肪が壊れていく臭いなんだと感じている。
口の中に嘆や唾液がたまり気持ち悪くなるのでちょこちょことうがいをするんだけど、そのたびにこの匂いとご対面だ。相当時間の栄養補給もちょっとしんどいんだが、むしろ僕にとってはこの自分が発してる病人の匂いの方が遙かに不快で辛い。
いつまで続くんだろうとは思う。
今のところ、匂いが減ってきたとかって感じはない。僕の体の一部は壊れ続けているっぽい感じだ。(この壊れていく過程もおそらくは体が作り直されている事から起こっている現象なのではないかとは思っているんだけど、やや滅入る)
もしかして、見舞いに花ってのは、花の香りがいろんないやな匂いを一瞬忘れさせてくれるのかもしれないね。