窓から差し込む初夏の日差しが、キミの前に置かれたソーダ水に差し込んでギンガムチェックのテーブルクロスの上に水色の影を落としている。グラスについてた水滴がキラキラ輝いていた。

「えっと……中川さん、調子は、どう?」

 僕は何を話したらいいのか結局判らなくて、出てきた言葉がこれなんだからどうしようもないなと、少し憂鬱な気分になった。

「うん、悪くないよ。っていうか、むしろいいかな。夏ってこう、なんていうか気分も上がってくるっていうか。ねぇねぇ、廣瀬君も夏って好き?あ、でも廣瀬君っていっつも本ばっかり読んでるから夏って感じじゃないよねぇ」

彼女はそう言ってストローに口を付けた。僕は彼女がストローをそっと唇でくわえる姿を見ただけでドキドキしてしまった。

 そもそも、僕は中川さんを眺めているだけで本当に充分だったんだ。

 だから、いつも陸上部の練習でグラウンドを走っているクラスメートののキミを遠くから見つめるだけで充分だった。彼女は毎日夕陽に染まるトラックを黙々と走り続けていた。細い手足が柔らかく前後する。それは猫を思わせる優雅な走り方だと僕は思った。彼女みたいに走れたら、一体何が見えるんだろうってそう思ったものだった。
 僕は本の中でならどこにだって行けるし、何にだってなれたけれど、本当は彼女と一緒にグランドを走りたかったのかもしれない。

「えっと、僕は夏よりは秋の方が好きかな。夏が終わって、空の色がどんどん濃くなって。遠くに見える山の輪郭がくっきりしてきて。そういう瞬間が……好きかな」

 あぁ、どうして”夏が好きだ”って言わないんだろう、僕は。そしたら、なにかこう共通点が見つかったみたいなそういう雰囲気になるじゃないか。

「おぉ、なんか文学的じゃん。私はさぁ、秋も嫌いじゃないけど、食べ過ぎて太っちゃうじゃん?だから、ちょっと秋は困るんだな」

そう言って、彼女はペロッと舌を出して笑った。やっぱり猫みたいだなと僕は思った。

 土曜の午後、図書館で本を借りた僕は、帰りがけの玄関で自主練を終えて帰る所なんだと言う中川さんと出くわした。「一緒に帰らない?」と声をかけてしまって、自分で自分に驚いた。
 ろくに話すことも出来ずもくもくと歩いて、「何か冷たいものでも飲まない?」と喫茶店に誘うのが精一杯だった。

 何か話さなくちゃ……。

「あのさ、グランドを走るキミのファンです!」

 目の前には、びっくりした猫のような顔をしたキミがいた。


<おわり>







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