「もうあなたとは会わない事にするわ!」
そう言って思い切って席を立った。テーブルの上に冷めかけのコーヒーが置かれている。伝票をつかむと私はレジに向かって歩き出した。
「そう、もう会わないのが・・・いいのかもしれない。でも・・・」
振り返って、今言ったばかりのことを取り消したい。そういう衝動に駆られるのをじっとこらえて踏み出す足に力を込める。これは決別だ。もう、私は彼女に頼らない。それをどれだけ自分に言い聞かせようとしても私の弱い心が彼女の言葉をほしがっているのがわかる。
彼女とは同じゼミになったのがきっかけで仲良くなった。そう、馬が合うというのだろうか、彼女と話していると時間がたつのも忘れてしまう。価値観が同じだと感じる。今までも仲の良い友達はいたけれど、こうまで思いが通じ合う相手とは出会ったことがなかった。それこそ恋人よりも彼女の方が私の事を理解してくれているんじゃないかと思えるほどだ。私たちは昔からの親友同士のように仲良くなった。
私はそんな彼女に恋人との事で相談もよくした。
「私、彼と別れようかと思って」
「どうして?あんなに仲が良かったのに」
他愛もない原因で口げんかになり、意固地になった私は彼からの電話にも出なかった。彼女は根気よく私の話を聞いてくれた。そう、私はちょっとしたすれ違いや、将来への不安、彼の優柔不断さに傷ついた事を彼女に話しつづけた。
「それは、ちょっとしたすれ違いかもしれないけれど、でも、本当にあなたのことを思ってくれる人だったらきっとあなたを傷つけない。恋に目がくらんで、お互いの価値観の違いに気がつかなかった。何より、あなたはもう彼と別れようと思っているのじゃないかしら。」
「そう、本当にそうよね。やっぱりあなたもそう思う?」
「私が、あなただったら、やっぱりその彼とは別れるんじゃないかな」
そして私は恋人と別れた。思いっきり私からふってやった。
しばらくはとても晴ればれした気分で過ごしていたのに、ふと思い返すとどうしてあんなつまらない喧嘩で別れてしまったのだろうと考え込んでしまう。そう、どこにでもあるちょっとした痴話喧嘩。
「どうして私、彼と別れちゃったんだろう」
「・・・」
「ねぇ、どうしたらいいと思う?」
「・・・、あなたはどうしたいの?」
その時私は気づいてしまったのだ。
彼女の言葉は、私の言葉を鏡のように私に返していただけだと。
私が望んだ私自身という理想の友達がそこにいた。
<おわり>
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