小説 Uneven horizon(でこぼこな地平線) 1
小説 Uneven horizon(でこぼこな地平線) 2
小説 Uneven horizon(でこぼこな地平線) 3
小説 Uneven horizon(でこぼこな地平線) 4
和真、誕生日おめでとう。17歳になったんだな。
今お前がこのメールを聞いているという事は、私はもうこの世にはいないのだろう。
ふはははは、まるで古い映画のようだろう?こうやって死後にメッセージが届くというのはちょっとおもしろいじゃないか。
今このメールを作っている時点ではワシはぴんぴんしているが、まぁ人の最期なんてのはいつやってくるかわからんからな。とにかくこのメールを聞いているんだから、やっぱりワシはすでに死んだんだろう。あるいはこのメール送信のスケジュールを忘れてしまってて、生きているのに消し忘れてるって可能性もないではないが、生きてればエージェントが注意してくれるだろうから、やっぱりワシは死んじまっているんだろう。
とりあえず、この部屋とギターとアンプ、それからCDをお前に譲ろうと思う。いるかいらないかは解らないが、一応ワシからの思い出の品として受け取ってほしい。
迷惑かな?
CDはワシが昔から聞いてたバンドやなんかのものだ。古くさいロックミュージックだな。今はもうCDなんて誰も使ってないが、それでもワシは時々この部屋でわざわざCDを聞いたりする。今じゃ当たり前になってしまったアウターブレインのネットからの音楽は、そりゃ音は抜群にいいし、CDみたいに左右のスピーカーから出る音と違って、脳内でサラウンドで聞こえてくるんだからCDなんてお前は物足りなく感じるかもしれん。
CDの前にはアナログレコードってのがあったんだが、さすがにワシもそれはコレクションできんかった。レコードって奴をならす為のプレーヤーってのが貴重品で、ほとんど手に入らなかったからな。今じゃCDプレーヤーだって入手困難な骨董品じゃから、このCD達もいつまで聞けるのかはわからんが。
アンプもギターも、まぁそれなりに年代もんじゃ。
そうそう、手入れする時は3ブロック先のウタノのじぃさんの店に相談に行け。生きてりゃちゃんと面倒を見てくれる筈じゃ。
ワシはなぁ、思うんじゃが、人はいつか死ぬ。それは誰にも平等に訪れる結末だと思っとる。そして、たいていの奴は死んで何年かすれば思い出してくれる奴も少なくなって、どんどん記憶の中から消えていく。
ノンブレインなら当然だし、アウターブレインにしたところで本当は似たようなもんさ。記憶のデータは残っていても、思い出すきっかけってのがなけりゃ人は死んだ奴の事なんて思い出さんもんだ。
現にワシだってばぁさんの事をしょっちゅう思い出すかと言われりゃそんな事もない。
お前と一緒にあちこち何か食いに行ったり遊びにいったりしただろう?
ありゃ、昔にばぁさんと一緒に行ったんだ。そこに出かけるとばさぁんの事も鮮明に思い出す。一緒に食ったもんだとか、一緒に行った場所、ばぁさんが好きだった花だとか、好きだった歌。そんなもんがワシにばぁさんを思い出させるきっかけをくれる。なぁんにもないふつうの日にゃ全然思い出しもしない。
そんなもんなんだろう。
もし和真がCD聞いて、気に入ってくれるもんがあったりすりゃ、その歌がワシの記憶と結びつく。この部屋がワシの記憶と結びつく。ギターやアンプがワシの記憶と結びつく。そういうきっかけになるんじゃないかと思んだがな。
迷惑な話かな、がはは。
でも、そうすりゃワシはお前の中で生き続けてるんと同じ事なんじゃないかなぁなんて思うんだがな。まぁ年寄りの感傷って奴だな、これも。
自分がいつか死んじまって、それで誰からも思い出してもらえないってのは寂しいじゃないか。
とにかく、そういうこった。じゃぁな。
<6へ続く>
小説 Uneven horizon(でこぼこな地平線) 2
小説 Uneven horizon(でこぼこな地平線) 3
小説 Uneven horizon(でこぼこな地平線) 4
和真、誕生日おめでとう。17歳になったんだな。
今お前がこのメールを聞いているという事は、私はもうこの世にはいないのだろう。
ふはははは、まるで古い映画のようだろう?こうやって死後にメッセージが届くというのはちょっとおもしろいじゃないか。
今このメールを作っている時点ではワシはぴんぴんしているが、まぁ人の最期なんてのはいつやってくるかわからんからな。とにかくこのメールを聞いているんだから、やっぱりワシはすでに死んだんだろう。あるいはこのメール送信のスケジュールを忘れてしまってて、生きているのに消し忘れてるって可能性もないではないが、生きてればエージェントが注意してくれるだろうから、やっぱりワシは死んじまっているんだろう。
とりあえず、この部屋とギターとアンプ、それからCDをお前に譲ろうと思う。いるかいらないかは解らないが、一応ワシからの思い出の品として受け取ってほしい。
迷惑かな?
CDはワシが昔から聞いてたバンドやなんかのものだ。古くさいロックミュージックだな。今はもうCDなんて誰も使ってないが、それでもワシは時々この部屋でわざわざCDを聞いたりする。今じゃ当たり前になってしまったアウターブレインのネットからの音楽は、そりゃ音は抜群にいいし、CDみたいに左右のスピーカーから出る音と違って、脳内でサラウンドで聞こえてくるんだからCDなんてお前は物足りなく感じるかもしれん。
CDの前にはアナログレコードってのがあったんだが、さすがにワシもそれはコレクションできんかった。レコードって奴をならす為のプレーヤーってのが貴重品で、ほとんど手に入らなかったからな。今じゃCDプレーヤーだって入手困難な骨董品じゃから、このCD達もいつまで聞けるのかはわからんが。
アンプもギターも、まぁそれなりに年代もんじゃ。
そうそう、手入れする時は3ブロック先のウタノのじぃさんの店に相談に行け。生きてりゃちゃんと面倒を見てくれる筈じゃ。
ワシはなぁ、思うんじゃが、人はいつか死ぬ。それは誰にも平等に訪れる結末だと思っとる。そして、たいていの奴は死んで何年かすれば思い出してくれる奴も少なくなって、どんどん記憶の中から消えていく。
ノンブレインなら当然だし、アウターブレインにしたところで本当は似たようなもんさ。記憶のデータは残っていても、思い出すきっかけってのがなけりゃ人は死んだ奴の事なんて思い出さんもんだ。
現にワシだってばぁさんの事をしょっちゅう思い出すかと言われりゃそんな事もない。
お前と一緒にあちこち何か食いに行ったり遊びにいったりしただろう?
ありゃ、昔にばぁさんと一緒に行ったんだ。そこに出かけるとばさぁんの事も鮮明に思い出す。一緒に食ったもんだとか、一緒に行った場所、ばぁさんが好きだった花だとか、好きだった歌。そんなもんがワシにばぁさんを思い出させるきっかけをくれる。なぁんにもないふつうの日にゃ全然思い出しもしない。
そんなもんなんだろう。
もし和真がCD聞いて、気に入ってくれるもんがあったりすりゃ、その歌がワシの記憶と結びつく。この部屋がワシの記憶と結びつく。ギターやアンプがワシの記憶と結びつく。そういうきっかけになるんじゃないかと思んだがな。
迷惑な話かな、がはは。
でも、そうすりゃワシはお前の中で生き続けてるんと同じ事なんじゃないかなぁなんて思うんだがな。まぁ年寄りの感傷って奴だな、これも。
自分がいつか死んじまって、それで誰からも思い出してもらえないってのは寂しいじゃないか。
とにかく、そういうこった。じゃぁな。
<6へ続く>