午後六時。夕食。
さきほど玄関で出むかえてくれた若女将が、刺身の盛り合わせ、一人用コンロで焼く蛤、白身魚の煮付けなどの料理を、何回かに分けて部屋に運んできてくれた。島の近くの海で獲れたものを使っているのか、刺身や貝料理がやけに旨かった。
こんな旅館の料理を食べるのはたいてい誰かと一緒のときだから、たまには【部屋で一人で食べる旅館の飯】というのも、味覚だけに集中できて新鮮だった。料理を運んでくる若女将と一言二言、世間話を交わすのも、やけに楽しい。
この食事のあと、女の子たちの顔見せが待っているため、私にはまだ緊張せねばならない状況が残っているのだが、旅館の飯の旨さに舌鼓をうつ私はいったん、それを忘却した。
部屋にひと通り料理が揃ったあとも、今度はお女将の方が十分おきくらいに盛蕎麦や焼魚などの追加の料理を運んできてくれて、私は完全に満腹になった。
お女将は最後の料理を運んできたときに、
「夜の女の子は、ちょっとまだ揃ってませんのでね…。顔見せは、もう少し待っていてくださいね」
と言った。
週末ではなく平日に、しかも一人でやって来た男が急に「泊まり」を頼んだために、置屋の方も対応に追われ、女の子が揃わないのかもしれない、と私は感じた。
だが、待てども待てども、女の子たちが私の部屋に来る気配がなかった。けっこう待つのであれば、私は先に風呂に入りたかったが、風呂に入っている間にもし、女の子たちを連れたお女将が来てしまったら…と考えると、部屋からは不用意に動けなさそうであった。すでに時刻は七時半をまわっている。
つづく