部屋に一人残された私は、夢でも見ているかのような感覚であった。私に夜の遊びの勧誘をしてきたのは、怪しげな遣り手婆さんではなく、いたって健全な感じのする旅館のお女将であった…!そして島に上陸した際の(売春自体もうやってないんじゃないか)という不安も一瞬のうちに消え、私は夜をともにする女の子を選ぶ段階に、すんなりと入っている。
(ネットの噂と、実際来てみるのとでは、だいぶ違うものだな)
私はリラックスした気分で、掃除の行きとどいた和室をながめた。ついでに外の景色を見ておこうと窓を開けた。
すると、私の目には見覚えのある黄色い建物が飛びこんできた。例のあの写真にうつっていた、Paradiseというゲームセンターの跡地である。
これも因果なのか、パラダイスのビルは、私が泊まっている旅館に隣接していたのだ。黒い、太いマジックで「テナント募集中」と書かれた貼り紙はいまだに残され、私に何かを訴えかけている。
お女将との健全なやりとりの直後だったせいか、パラダイスのビルを最初に写真で見たときの暗い印象は私の心から消え去り、私はそのビルを「廃墟」とは呼べない気分になっていた。パラダイスの真っ黄色なビルは、初夏の青空と絶妙なコントラストを作っていて、私に小気味よささえ、感じさせていた。
「上陸」 了