こんにちは。

東京原宿クリニック院長の篠原岳です。

 

アメブロでは、専門的な用語をできるだけ噛み砕き、今日から動ける実践法を中心にお伝えします。

結論から。

 

世の中で言われる「副腎疲労」という言葉は、国際的に確立した病名ではありません。

 

まず見落としてはいけない本当の内分泌疾患(副腎不全、クッシング症候群など)を先に除外し、

そのうえで睡眠・光・食事・ストレスといった“上流のレバー”を地道に調整する――

 

これが安全かつ再現性の高い道筋です。

 

以下、「やめること」「先に整えること」「検査の順番」「よくある勘違い」の4部構成でまとめます。

 

まず“やめること”リスト(安全のためのブレーキ ブレーキ)

1)成分が曖昧な「アドレナル系」サプリの自己判断

一部市販品から未表示のステロイドや甲状腺ホルモンが検出された報告があります。HPA軸(ストレス反応の司令塔)を抑制して中止時に危険を招く可能性も。医療者の管理下以外では避けるのが安全です。

2)甘草(グリチルリチン)を含む製品の漫然使用

偽アルドステロン症(高血圧・低K・不整脈など)のリスクがあります。高血圧・腎疾患・利尿薬使用者は特に注意。気になる方は必ず医療機関で相談してください。

3)アシュワガンダの安易な併用

体質や既往により甲状腺機能の変動(甲状腺中毒症)が報告されています。甲状腺治療中・既往がある場合は回避または医師管理下で。

4)「朝イチのカフェインで無理やり覚醒」

起床直後は自然なコルチゾール覚醒反応(CAR)が働く時間帯。カフェインは午前の後半〜昼手前に。CARは採取手順の厳守が必要なほど繊細な生理反応です。

 

5)強度の高い運動で“根性リセット”

“やる気が出ない→追い込む”は逆効果になりがち。低〜中強度で頻度を保つほうがリズムの再建に役立ちます。

6)ステロイド製剤(内服・吸入・外用)の自己中断

(警告)使用歴がある方は独断での減量・中止は厳禁。副腎不全を招く恐れがあり、減量には医学的手順が必要です。

次に“先に整えること”リスト(14日間のスターター ✨)

A)睡眠 × 光:体内時計の再調律 ☀️

  • 起床時刻を固定(まずは±15分以内)。

  • 起床直後に屋外光を5–15分。

  • 就寝前1–2時間は強い光・画面を回避。

    → これだけでもコルチゾールの日内リズムに良い影響が出ます。

B)朝の血糖の“振れ幅”を抑える

  • 朝食はたんぱく質+脂質+食物繊維を土台に。

  • 空腹を無視してのカフェイン単独摂取を回避(動悸・不安感・午後の失速を助長)。

C)水分と塩(医療者と相談)

立ちくらみや低血圧傾向が強い人は、ナトリウム不足が隠れていないかを点検(ただし高血圧・腎疾患・妊娠中などは主治医判断が大前提)。

D)呼吸と運動

  • 鼻呼吸・横隔膜呼吸を1日合計10分。

  • 低〜中強度の有酸素+軽いレジスタンスをちょい足し”。

E)夜のルーティン 🌙

  • 入浴→クールダウン→照明を落とす→同じ時刻に就床。

  • 寝酒での入眠は睡眠の質を落とすので避ける。

この14日スターターの目的は、検査に頼り過ぎずに“体内の時計”を手作業で合わせ直すこと。

次項の「検査の順番」を踏む前段として、誰でも今日から実行可能な土台づくりです。

検査は順番が9割(“何を調べるか”より“いつ・なぜ” 🩺)

① 危険な疾患の除外を最優先

  • 副腎不全(Addison病など):朝のコルチゾール、ACTH、電解質、必要に応じACTH負荷試験。国際ガイドラインでもここが基本。

② 一般的な“だるさ”の背景を一斉点検

甲状腺(TSH/FT4/FT3)、鉄代謝(フェリチン含む)、B12・葉酸、ビタミンD、血糖/HbA1c、炎症(CRP)、睡眠時無呼吸の疑い、薬剤歴(特にステロイド)など。

③ 唾液コルチゾールの位置づけ

  • 夜間唾液コルチゾールは高コルチゾール状態の評価に有用。

  • 一方、日中の多点唾液コルチゾールやCAR(起床時反応)はストレス生理の可視化ツールであり、副腎不全の診断目的には使いません。採取タイミング厳守が不可欠です。

院長メモ(“検査ありき”にしない理由)

検査で見るのは「構造の異常」と「機能の偏り」。

構造の異常(副腎不全・クッシング)を先に除外したら、機能の偏りは生活・環境・栄養を組み替えることでしか整いません。

検査の解像度を上げる前に、生活の“ノイズ”を下げること

が近道です。

症状別・最初の一手(院内でよく使う簡易アルゴリズム 🗺️)

A)「朝がまったく動けない」

  • 起床時刻固定+朝の屋外光

  • 朝食のたんぱく質確保

  • 午前のカフェインは食後

  • 就寝前の光・情報刺激を間引く。

    (14日で変化が乏しければ、鉄・甲状腺・AMコルチゾールなどを整理)

B)「午後にガクッと落ちる」

  • 昼食の糖質過多と睡眠の質を同時に見直し。

  • 軽いレジスタンス運動を昼〜夕方へ配置。

  • 水分・塩(適応ありなら)を微調整。

C)「塩気を強烈に欲する/立ちくらみ」

  • 血圧・脈拍・電解質をまず確認。

  • 甘草含有の食品・サプリは一旦ストップ。

D)「サプリで何とかしたい」

  • まず食事と睡眠。

  • C・B群・Mgなど“非ホルモン系の土台”を医療者と設計。

  • アドレナル系サプリの“独断常用”は原則NG。
     

よくある勘違い

Q1. 「副腎疲労」という病名はある?

A. 公式な診断名ではありません。症状は現実でも、まずは副腎不全やクッシングを除外することが重要です。

Q2. 唾液コルチゾールを測れば“副腎の疲れ”がわかる?

A. はい。日内の多点唾液やCARは可視化ツール。診断の主役ではありません。

Q3. 甘草やアシュワガンダは“自然”だから安全?

A. 自然=安全ではありません。甘草は偽アルドステロン症、アシュワガンダは甲状腺機能への影響が知られています。

Q4. まず何から始めればいい?

A. 起床時刻固定・朝の屋外光・夜の強光回避・朝食のたんぱく質・午前のカフェインは食後。

この14日スターターが、本当に効きます。

もっと深く学びたい方へ(当院ブログ)

副腎×栄養の全体像とロードマップ(東京原宿クリニック公式)

唾液コルチゾール検査:やり方と落とし穴(CARの現実)

副腎系サプリ:効果より“禁忌と安全性”を先に理解

受診・ご相談は東京原宿クリニックの公式サイトからどうぞ。

まとめ(3行で)

  • 「副腎疲労」という言葉より、除外すべき疾患と生活のレバーに集中。

  • まず“やめること”を止血し、14日スターターで体内時計を調律。

  • 検査は順番が9割。危険疾患→一般検査→唾液は可視化。サプリは安全性最優先。

【重要:医療に関するご注意】

※ 本記事は一般情報です。急な悪化・体重減少・低血圧・色素沈着・電解質異常などを伴う場合は早急に医療機関へ。

※ ステロイドや甲状腺薬、甘草を含む製品の使用歴がある方は、自己増減・自己中断を行わないでください。

参考リンク(外部・原典URL)

Endocrine Society(患者向け解説)Adrenal Fatigue

https://www.endocrine.org/patient-engagement/endocrine-library/adrenal-fatigue

Bornstein SR, et al. Diagnosis and Treatment of Primary Adrenal Insufficiency. J Clin Endocrinol Metab. 2016

https://academic.oup.com/jcem/article/101/2/364/2810222

Endocrine Society(臨床ガイドライン)Diagnosis of Cushing Syndrome

https://www.endocrine.org/clinical-practice-guidelines/diagnosis-of-cushing-syndrome

Stalder T, et al. Assessment of the Cortisol Awakening Response. Psychoneuroendocrinology. 2016(PubMed)

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26563991/

Akturk HK, et al. OTC “Adrenal Support” Supplements Contain Thyroid and Steroid Hormones. Mayo Clin Proc. 2018

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0025619617308352

Yoshino T, et al. Licorice-Induced Pseudoaldosteronism. Front Nutr. 2021

https://www.frontiersin.org/journals/nutrition/articles/10.3389/fnut.2021.719197/full

Kamal HI, et al. Ashwagandha as a Unique Cause of Thyrotoxicosis. 2022(PMC)

https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9035336/