慶喜さんが寛永寺で謹慎中、
庭先で花を摘むのが日課になってた。
今日も花を摘んで部屋に戻ろうとすると
お寺の人がお客が来たと私を呼びとめた。
訪ねて来たのは
カメラを見つけた翔太だった。
「これで未来に帰れるかもしれない」
そう優しく微笑む彼に、
私は摘んだ花を落としてしまった。
「結城…と言ったかな。
瑠奈の幼馴染が無事で俺も嬉しいよ」
私が混乱している間に、
翔太君は慶喜さんの部屋へと招かれて、
慶喜さんに催促されるまで
お茶を出すのも忘れていた。
相変わらずぼんやりしていると
笑う翔太はどこか寂しげで。
できるだけ冷静に
龍馬が亡くなった事を告げた。
「龍馬さんは守れなかったけど、
お前の事はちゃんと守れそうだ」
と私を未来に帰すのが一番だと思っている。
でも私はカメラが見つかった事を
手放しに喜べなかった。
慶喜さんは何を考えているんだろう、
翔太君の傍らに置いてある
カメラを見つめていた。
未来に帰る事は慶喜さんと
離れ離れになると言う事だ。
この横顔を見る事も
もうできなくなってしまう。
(翔太君がカメラを持ってきた事、
慶喜さんはどう思っているんだろう…
私はどうすればいいの…?)
「…結城とやら、カメラは
ちゃんと使えるのかい?」
それは分からないと言う翔太に、
なら、使えるのか確かめないとと言う。
それに翔太が制服は持っているかと聞き、
あの時と同じ状況にして
カメラが使えるか試すという。
それで壊れていたら、
修理してくれる人を探さないとと。
何も言えなくなる私に
翔太が怪訝そうな顔をする。
その空気に耐えられず
つい、制服に着替えてくると、
口にしてしまった。
「…その格好は久しぶりだね」
制服に着替えた私を見て、
慶喜さんが笑う。
久しぶりのスカートを
気まずく手で押さえた。
太ももまで出すのが恥ずかしい。
私もすっかり幕末の生活に慣れていたんだと
気付いて、それからまた重い気持になった。
翔太も同じように着替え
カメラの調子を確かめる。
ここでカメラが動いてしまえば
一瞬でこの風景とお別れをする事になる。
「うん…多分使えそうだ。
瑠奈、じゃあ早速試してみよう」
翔太に呼ばれるけど
私は足を動かす事が出来ない。
もしこのまま
現代に飛ばされてしまったら…。
そう思うと体が動くことを拒否していた。
「…瑠奈」シュン
慶喜さんが私に歩み寄る。
大きな手をそっと肩に置かれると、
胸がじわっと熱くなった。
慶喜さんの手が、私は大好きだ。
その優しい手に、
何度励まされたか分からない。
(この手とお別れする事が、
私にできるの?)
「瑠奈」
もう一度名前を呼ばれて、
私はそっと顔をあげると、
慶喜さんが子供を諭すような目で
私を見つめていた。
「…このカメラがちゃんと使えるかどうか、
確かめておいた方がいい。
結城くんの言うように、もし壊れていたら
いざという時に困るから…」
「いざと言う時って…」
「……」
「…っ」
私はぎゅっと手を握り締めた。
「そんな事…言わないでください。
いざという時なんて、こないんです…!」
「瑠奈…」シュン
「私…」
一瞬脳裏をよぎる両親やクラスの友達。
だけど、私ははっきりと言葉にした。
「私は、やっぱりここに残ります」
翔太君が驚いている。
だけど私は、ここに残って、
ずっと慶喜さんの傍にいると、
翔太君だけ現代に戻ってと言った。
「……お前…」シュン
「慶喜さんの居ない世界なんて、
考えられないんです!」
「………でもね、瑠奈。
お前がこの世界に残ったとしても、
俺がずっとお前の傍にいるとは
限らないんだぞ」
「今はこうして生きているが…。
ひょっとすれば、明日には
首を落とされているかもしれな…」シュン
「───それでもっ!!」
「……」!?
「例えそうだとしても…
慶喜さんのいない時代に戻るくらいなら、
この時代で太夫をし続けて、
死ぬまで独り身で過ごす方が
ずっといい…!」
そう言いきって、私はギュッと
慶喜さんに抱きついた。
翔太君が驚きに息を飲む気配がしても、
慶喜さんから離れなかった。
「……」
「…困った子だね」テレ

慶喜さんが苦笑しながら私の頭を撫でる。
絶対に離れないと私はますます
慶喜さんの胸に顔を押し付けた。
「そんな事を言ったら、
秋斉に怒られるだろ。
それも、ものすごく」
「…秋斉さんに?」
「もしここにいたら、間違いなく
扇子越しに冷たい視線を
送られていただろうね。…俺が」
「…?何で慶喜さんが?」
「あいつは存外、
瑠奈びいきだからなあ」ニコ

泣きかけの赤い目で
慶喜さんを見上げるけど、
それ以上は教えてくれなかった。
END選択
↓
鏡or花