ある施設での自閉症者への対応の件 虐待? 続報 施設長さんの反論も | kingstone page(旧)

ある施設での自閉症者への対応の件 虐待? 続報 施設長さんの反論も

ある施設での自閉症者への対応の件 虐待?

のもとになった「探偵ファイル」に続報が出ました。今回は施設長さんの反論と、情報を流出させた方の言い分やインタビュー動画があります。

私はさつき学園の園長です。

 また思い浮かぶことなど、書いて行きます。まず施設長さんの反論から。

「まずIさんの怪我についてですが、口の横の擦り傷はその時に出来たものではなく、日常的に腕や方で口の横をこするという行為で出来たものです。」

 なるほど、そういうことはあるかもしれません。これは「自己刺激行動」である場合もあるかもしれません。でもやっぱり「環境を整え」「意思を表現する手段がある」状態なのかなあ、それが満たされていたら、回数はどうだろう、というのはあります。

「右目の痣については投稿者がIさんにこれまで頭突きの行為が無かったと書いている通り、初めは私も信じられませんでしたが、頭突きをされた職員もおでこに腫れがあり、氷で冷やしていました。
その数週間後に私自身がIさんに同様の頭突きをくらいそうになったことがあり、「なるほど、これで怪我をしたのか」と納得しました。その後他の職員もIさんに頭突きを受けそうになったことが記録されています。Iさんには施設内では他人の足を踏みつけるなどの他害行為はありましたが、過去に頭突きはありませんでした。しかし、家庭内では以前はあったそうです。」

 頭突き行動が「家庭内ではあった」が「施設内では報告が無かった」しかし最近出てきた。となれば、環境の変化があったのではないか、わかるように伝えているのか、表現手段の確保はされているのか、を疑うべきだと思います。

「また、Iさんはお父さんを亡くされてからかなり身体的にも心理的にも大きな変化があり、行動が以前とはかなり変わってきていました。」

 もちろんお父さんが亡くなられた、という事実は大きいものがあるかもしれません。しかし「問題」が起きた時、こちらが情緒的に考えると失敗することが多いです。心の問題、と言うかな。そういうものが「無い」と主張しているのではありません。そこはめいっぱい考慮するとして、我々他人にできるのは環境の調整しか無い場合が多いのです。

「次に投稿者がマウントと称している行為ですが、施設内では安全確保のための行動制限ガイドラインを設け、パニック状態で自身にも他者にも大きな危険を伴う状態の時には、安全確保のために寝かせた状態で体を抑えるようにしています。」

 これも前回も私も書いたように「仕方ない」場合もあります。しかし、この文言では、う~ん、結構日常的に行われているような感じがあるなあ。あくまでも「よほど危険が迫っている時以外は、腕をつかんだり、体を押さえつけたりしない」という方向から語られるべきものであって。

「動画にあった場面では、利用者さんはガラスへの頭突き、自分の目に指を突っ込む自傷行為、他者に対する噛み付きと叩きという行為が1時間以上続くという大変な状態で、職員も利用者へ大怪我をさせないために必死で行動を抑えている場面です。」

 「見てわかる環境」「表現の手だて」「選択できること」がどれだけ確保されているのだろうか。

「「当時あったはずのこの記録が今はなぜか削除されている。」と投稿されていましたが、そのようなことは一切ありません。今でも支援記録管理ソフトの中にそのまま残っています。」

 なるほど。この部分は明白な間違いということですね。

「職員の言葉使いについては、一人の大人の人間に対して失礼に当たる言葉使いが聞こえてくることもあり、その都度注意をして改善する努力をしています。これはどの現場にも共通した課題ではないかと思います。」

 これは努力して頂きたい。ただし「言葉づかい」の問題でなく、それこそ「人権感覚」の問題なのですけどね。

 私が知的障害特別支援学校にいた時、校長が授業参観のある日の職員朝集で「今日は保護者が来られるので大声や乱暴な言葉で子どもに指示をするのはやめるようにして頂きたい」と職員に指示を出したことがあります。全然根本的な解決にならない指示ですが、それでも何も言わないよりましでしょう。逆に言うと、使命感あふれた校長でも現場にそれくらいしか言えなかったのですね。(注・これは大昔の話で今は違うと思います)

「さつき学園ではこれまで、自閉症者の内面理解に努め、本人の主体性を大事にして支援者との間に相互主体的な信頼関係を築くことを目標にして支援を行ってきました。」

 どういうふうに努力してきはったのかな?一生懸命考えるだけでは意味が無いのですが。具体的な手だてをもって表現してもらわないと。(その上でいっぱい想像力をはたらかせることは良いことです)そしてそれ以外で自閉症の人と支援者との間に相互的な信頼関係は生まれません。

「強度行動障害の方を多く支援する中で、自傷や他害による事故、怪我というものは絶えません。そうした中で職員は日常的に利用者さんに噛まれたり殴られたりしながらも、それを利用者さんの言葉に出来ない気持ちの表現行動であると捉え、辛抱強く対応しています。」

 辛抱強く対応してるだけではダメだということは何度も書いている通り。「噛まれたり」「殴られたり」が日常的にある、ということは環境調整(「わかるように伝える」「本人からの表現手段がある」のあたり)に失敗していることがおおいに考えられますから。

「投稿者はおそらく昨年末に退職した元職員であると思います。数年前からうつ病を患い、仕事の面でもミスや病欠が多くなり、周りの職員との人間関係もうまくいかなくなっていました。そうした中で隠し撮りや盗聴などの人権侵害に当たる行為も行うようになっていきました。」

 その通りかもしれません。私も周囲から「変」と呼ばれてたなあ。でもだからこそ大切なことを伝えてくれているのかも。

「投稿者の今回の行為は利用者さんへの重大な人権侵害であり、毎日身を犠牲にして全力で行動障害の支援に当たっている現役職員への侮辱が含まれていると思います。非常に悲しいことです。」

 確かに「了解を取っていない」という意味では人権侵害かもしれませんね。しかし、その前に周囲にある「困ったこと」の量や強度が強すぎるかもしれない。「現役職員への侮辱」はどうなんだろう。

「もしご不審に思われる点がございましたら、いつでもけっこうですので見学にいらしてください。
当施設には日常的に見学者や実習生、保護者様が出入りしており、何も隠し立てすることはございません。」

 これはとてもいいことですね。


 投稿者の記事から。

「本人は本当に危険な場合にマウントをすることもありますが、感情に任せてということはないようです。」

 感情に任せてならダメで、冷静になら良い、というもんでも無いなあ。私のいた知的障害特別支援学校でも冷静に「威嚇と暴力」を使う人はいたけど。

「泣いていた女性支援員もいて、あなたの行為は、たくさんの人を傷つける行為だと、非難されましたが、暴力行為にさらされ、心ない言葉の暴力を日々浴びせかけられた利用者のために泣いたのではなく、自己保身、自己愛、自分が傷ついたことの涙なのでしょう。 」

 これはわからないですね。支援員さん自身は「愛情豊か」で「熱心」な方である可能性が高いです。本当に利用者さんのため、またそれなりにうまくやっている(と思っている)組織ががたがたにされる、という怒りや悲しみで涙を流されたのかもしれない。ただ、実は「知識」や「技術」を知らないためである部分もあるかもしれない。「こうすりゃそんなことしなくてすむんだよ」ということをご存知ないという意味で。

「多くの理不尽な扱いを受けている障害者のための今回の私の行動ですが、少なからず、復讐をしたいという気持ちがあることも事実です。いけないとはわかりつつも…」

 あはは。「復讐」なあ・・・私が「威嚇と暴力」をばらしたのはなぜだろう。死ぬまでにどこかに残しておきたかった、というのはあるなあ。あんまし「復讐」という気分は無いなあ。で、そこから考え始めないと何も始まらない、そんな気分なのですが。

 ちなみに投稿者が「復讐」と書いておられる気持ちはよくわかるような気がします。現場にいて、すごく悲しいことを見て、自分が何もできないことに傷ついてしまわれるのですよね。それに対して何かをしたくなる。だから、投稿者が正しいとか、ちゃんとやり方がわかっている、とかいう話ではなくて。でも大切な気持ちだと思います。

 そして施設長さんも、何とかうまく運営していきたい、という大切な心を持っておられると思います。

 なお、最後の投稿者とおぼしき方の動画は、私は難聴のせいか何も聞き取れません。