「Letters」「Change the world」読者の為の福岡案内(第6回) | 『Go ahead,Make my day ! 』

『Go ahead,Make my day ! 』

【オリジナルのハードボイルド小説(?)と創作に関する無駄口。ときどき音楽についても】


 途切れてしまった話を繕うように向坂が口にしたのは、「――そういえば、長浜の屋台って何処にあるんだ?」という、ムードもへったくれもない質問だった。
 唖然として彼の顔を見返したが、次の瞬間には思いっきり笑い出していた。向坂が呆けたように途方に暮れていたからだ。
「なん、その強引な話題の変え方!?」
「……仕方ないだろ。こういうとき、気の利いたことが言えるようだったら、祖母さんとだって仲直りできてたさ」
「そうかもしれんけど。でも、何で長浜なん?」
「思いついたのがそれだけだから。有名なんだろ?」
「まあね」
 とは言っても、行ってみようかとはちょっと言い難かった。
                                       「Change the world」第23章より


さて、博多の名所を挙げろと言われたら、おそらく誰もがその名を出すに違いないのが長浜の屋台。作中では大人の事情(ウソ)で2人は長浜には行かないのですが、せっかくなので少し触れておきましょう。

『Go ahead,Make my day ! 』-MAP(長浜)
(地図がスーパー手抜きなのは見逃してください……)

親不孝通りと長浜の位置関係はだいたいこんな感じなのですが、真奈が作中で言っているように歩いていくにはなかなか微妙な距離(1kmちょっと)です。
名物といわれて観光客も多く訪れる割には交通の便が悪く、一番近くのバス停は那の津通り沿いですが、この路線は夜になるとめっきり便数が減ります。もし、福岡を訪れた際に行ってみようと思われるのなら、素直に天神辺りからタクシーに乗ることをお勧めします。

『Go ahead,Make my day ! 』-長浜(屋台1)『Go ahead,Make my day ! 』-長浜(屋台2)

『Go ahead,Make my day ! 』-長浜(屋台3)『Go ahead,Make my day ! 』-長浜(屋台4)
屋台の大半は「長浜とん吉○○」という屋号なのですが、具体的にどんな関係なのかはよく分かりません。違いがあるのかどうかも不明。
ちなみに長浜ラーメンは博多ラーメンの別称とされることが多いのですが、両者の間には(明確ではないにしても)違いがあるのも事実だったりします。以下、ウィキペディアより抜粋。

長浜ラーメン
博多長浜ラーメンまたは長浜ラーメンと呼ぶ場合もあるが、観光などでよく連れて行かれる長浜の屋台街は、本来「博多」の範囲ではない(長浜地区は「中央区」であり、博多(区)の西端である中洲より西にある)。

「博多ラーメン」と「長浜ラーメン」は本来は別物であるとする主張も見られる。これは「長浜地区の近傍にある『福岡中央卸売市場』の肉体労働者がたくさん食べることが前提となる長浜ラーメンは非常に濃い味が特徴で、元は替え玉をした二杯目が美味しく食べられる程度、つまり一杯目は濃すぎるほどである。それに対し博多ラーメンは商人の町である博多に合わせ一杯目が美味しいラーメンで、替玉がない店もあった」との説に拠る。もっとも博多ラーメン・長浜ラーメンともに近年のブームにより福岡市とその近郊を中心に急拡大し、2000年代の現在は既にその境目はそれほどない。

元祖長浜屋
長浜に店舗を構え「長浜ラーメン」の代名詞でもある「元祖長浜屋」は観光客にもその名を知られ、その独特の味わいは福岡の「ソウルフード」としてファンも多い。またマルタイより「元祖長浜屋協力 豚骨ラーメン」が発売されている。
「ラーメン」の他には飲物程度しかメニューがないため、店に入ると「○○ハ~イ(杯)!」と入店人数に合わせ自動的に厨房に注文が伝えられる。空いている席を探して座った頃には出来上がったラーメンがテーブルに置かれるほど出来上がりも早いため、麺の硬さなどの注文は店に入ってすぐに言わなければならない。その注文の内容は「麺の硬さ(やわ・かた・なま)」と「油の量(なし・べた)」で、両方を指定する場合は油の量を先に言うのが通例となっている(例:「べたやわ」「なしかた」)
ちなみに「なま」とは「生麺かと思うほど固い」湯通しした程度の茹で具合を指し、「べた」とは「ベタベタするほど油多め」の意である。
2007年6月には支店・本店共に突然休業し、ネットから火の付いたその模様は地元紙大手の西日本新聞にも掲載されテレビでも報道されるなど地元ではちょっとした閉店騒ぎになった。その半月後営業が再開され多くのファンを安堵させたが、翌2008年4月には本店が閉店。現在旧支店の1店舗で営業をしているが、今後の動向が注目されている。


上の説明では分かりにくいですけど、店に入ったときに厨房にオーダーを出すのは店のオバチャンであって客ではありません(笑)。ちなみにここ、長浜のラーメン屋の中でも群を抜いてスープが脂ぎってるので2日続けて食べるのはなかなか困難です。
『Go ahead,Make my day ! 』-ラーメン(元祖長浜屋)『Go ahead,Make my day ! 』-元祖長浜屋(本店)
(写真は上記ウィキで触れてる本店。←閉まった方)

福岡(に限らず九州の)ラーメン屋では注文時に麺の固さ(茹で加減)を訊かれることが多いです。段階は固い順に「ハリガネ」「バリカタ」「カタ」「フツー」「ヤワ」「バリヤワ」といった感じですね。
この「バリ」は博多弁における誇張表現ですが、どちらかと言うと擬音に近い扱いです。漫画「バンビ~ノ」では主人公がパスタの茹で加減についてこの表現を使ってましたっけ。(作中で真奈がこれを言ってないのはわたしがあまり擬音を使わないから)
彼の地のラーメンはのびやすい細麺のため、茹で加減は固めのほうが良いとされ店によっては「ナマ」とか「粉落とし」なんてのもありますが、普通の人はお腹を壊しかねませんからよほど胃腸に自信がある方以外は避けたほうがよいでしょう。但し、屋台においてはやや茹ですぎの傾向があるので、普通の茹で加減が好きな人はやや固めにしておいたほうが無難なようです。
ところで第2回の那珂川沿いの屋台通りのところで「屋台には替え玉はない」と書きましたが、あちらでもできる屋台もあるそうです。ただし、あまりいい顔はされないらしいですが。長浜では(おそらく)どの屋台でもできます。屋台では少数派ですが「替え肉」なるチャーシューのお替りができる店もあります。

余談ですが「Left Alone」で真奈がロードスターを違法駐車する長浜の倉庫街というのは、具体的には卸売市場前の道路のことです。特に屋台街に曲がる近辺は路肩にスペースがあるので停めやすいのですね。
(但し、警察がまったく来ないわけでもないようです。コレを読んで違法駐車をしてレッカーで持っていかれてもわたしは一切関知しません。笑)

『Go ahead,Make my day ! 』-福岡市中央卸売市場
こちらは市場正門。
これまた余談ですが、市場内(正門から入って右)にある市場会館1Fのお店は一般の方でも利用できますがここは知る人ぞ知る穴場。市場の食堂なので営業時間に注意が必要ですが、とにかく新鮮で美味しくてしかも安いのです(ちなみに写真の海鮮丼は味噌汁つきで600円!)。
『Go ahead,Make my day ! 』-海鮮丼『Go ahead,Make my day ! 』-ごまさば
右写真はシリーズで何度か登場のごまさば。サバの刺身にゴマと醤油ダレを和えた福岡では非常にポピュラーな食べ物なんですが、全国的には品種としてのゴマサバ(体側にゴマのような斑点があるサバ)と間違われることが多いのですよね~。

閑話休題。(← 脱線しすぎ)
ところで、わたしが何ゆえに2人を長浜へ行かせなかったかというと、

周 り に 何 も な い か ら

なのですが、実際のところ、本当に何もありません。観光客の方はタクシーでやってきてラーメンを食べてしばらく通りをウロウロして写真を撮ったら、後はタクシーで帰るしかないというところです。


(さすがに那の津通りの画像はないかと思ったら何と動画が……。延々と車窓映像なのでちょっとかったるいですけど)

まあ、立派な観光資源なんだから交通手段の整備をすればいいのにと思うのですが、実は福岡の行政や警察、その他の一般住民も含めて、屋台に向けられている目というのは決して好意的なものばかりではないのが実情です。長浜ではほとんど問題になりませんが、市内の屋台は正当な権限なく歩道を占有していますし(今は指導が厳しいので控えめですが、一昔前は点字ブロックまではみ出してる店はザラでした)、立ち込める食べ物の匂いやゴミ問題、あるいは深夜に及ぶ喧騒の問題など、屋台の近隣に住んでいる人たちにとっては迷惑な部分も少なからずあるのです。
そういう事情もあってか、現在は屋台の新規出店は認められていませんし、代替わりも一代限り、しかも近親者に限るという厳しい制限が設けられています。従って――この制限が遵守され続けていけば――いずれ博多の屋台は姿を消さざるを得ないでしょう。我々はたまに店に行くだけなので、どうしても「博多らしさだから残して欲しい」という方に傾きがちですが、そこに住む人たちの声は無視できませんよね。
わたしたちにできることはマナーを守って、周囲の方々に迷惑をかけないようにこの貴重な観光資源を楽しむことくらいでしょうか。

(うーん、何だか真面目な結びになってしまった……。第7回に続く)