『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』(村上春樹著/2001年) | 『Go ahead,Make my day ! 』

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【オリジナルのハードボイルド小説(?)と創作に関する無駄口。ときどき音楽についても】

 
もし僕らのことばがウィスキーであったなら(新潮文)/村上 春樹

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 手に取ったのはずいぶん昔の話(2年前)ですが、今でも結構手に取ることの多い一冊。
 村上春樹氏の小説はとんでもなく長いのでなかなか手にできないのですが、エッセイは比較的短くて読みやすいので助かります。
 
 内容はぶっちゃけ、
 
「アイラ島(Islay)に行ってシングルモルトを飲んで、アイルランドに行ってアイリッシュ・ウィスキーを飲んできました」
 
というただの旅行記なのですが。
 それでも――小説ほどではありませんが――春樹節は健在でして、独特の比喩と土地の人々や風景をまるでスナップ写真のように切り取る文章は味わい深いものです。
 そうそう、写真と言えばこの本で使われている写真はすべて奥さんの手によるものだそうなのですが、プロのカメラマン顔負けの素晴らしいものです。
 旅行記というのは写真の出来が大きなウェイトを占めるわけで、これらを眺めているだけでも結構楽しめる一冊です。
 
 ちなみにタイトルは序文の一節なのですが、なかなか含蓄のあるところなので引用してみましょう。
 
 ――僕が旅先で味わったそれぞれに個性的なウィスキーの風味と、手応えのあるアフター・テイストと、そこで知り合った「ウィスキーのしみこんだ」人々の印象的な姿を、そのままうまく文章の形に移し変えてみようと、僕なりに努力した。ささやかな本ではあるけれど、読んだあとで(もし仮にあなたが一滴のアルコールも飲めなかったとしても)、「ああ、そうだな。一人でどこか遠くに行って、その土地のおいしいウィスキーを飲んでみたいな」という気持ちになっていただけたとしたら、筆者としてはすごく嬉しい。
 もし僕らのことばがウィスキーであったなら、もちろん、これほど苦労することもなかったはずだ。僕は黙ってグラスを差し出し、あなたはそれを受け取って静かに喉に送り込む。それだけですんだはずだ。とてもシンプルで、とても親密で、とても正確だ。しかし残念ながら、僕らはことばがことばであり、ことばでしかない世界に住んでいる。僕らはすべてのものごとを、何かべつの素面のものに置き換えて語り、その限定性の中で生きていくしかない。でも例外的に、ほんのわずかな幸福な瞬間に、僕らのことばはほんとうにウィスキーになることがある、そして僕らは――少なくとも僕はということだけれど――いつもそのような瞬間を夢見て生きているのだ。もし僕らのことばがウィスキーであったなら、と。

 
 同じようなことをこの人は何度も語っていて、確か「ノルウェイの森」にも「文章という不完全な器に盛れるのは不完全な想いだけ」みたいなことを書いておられますが、レベルは大きく違っても言われていることって何となく理解できるのですよね。
 目に見えるもの、耳に聞こえるもの、鼻で匂うもの、舌で味わうもの、肌で感じるもの、その他、五感で感じる様々なもの。物語を描くときにはできるだけそれらをたくさん盛り付けたくなるのですが、それらをすべてことばに置き換えることは不可能ですし、仮にできたとしてもすべてを盛り付けたら文章が重くなりすぎて、物語は大きく停滞してしまうでしょう。
 だから、物語の書き手は描きたい事柄の何か1つ(あるいは2つ、3つ)を取り出して読み手の中にあるイメージを呼び起こすことに賭けるのですが、その難しさは並大抵のことではありません。
 
 ウィスキーの本だからそれに引っ掛けたただのレトリック、と言えばそこまでかもしれないこの一節ですが、わたしには内容よりも(いえ、内容も充分に面白かったのですが)ここが一番印象的な一冊で、何度も読み返してしまうのは文章全体に村上春樹氏の想いがにじんで見えるからかもしれません。

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『Go ahead,Make my day ! 』-メーカーズ・マーク(レッドトップ) こちらは「Change the world」に登場するメーカーズ・マーク。
 真奈が(未成年のくせに)「最近のお気に入り」などとほざくバーボンですが、味わいは普通のバーボンに比べて何というか華やかな感じで、バーボン嫌いな人がいう「消毒用アルコールみたいな味」はまったくしません。
 キャップの上に特徴である封蝋が施してあって、そのクセというか蝋のタレ具合に職人さんごとの違いがあるのだそうで、ものすごいマニアの世界では「これは誰それの仕事」というところまで識別できるのだとか。
 封蝋の色は赤いのが普及版であるレッドトップ(8年)、緑色のがミントジュレップ、黒いのがブラックトップ(12年)です。これに限定版だったブルートップというのがありますが、そもそも売れ行きが良すぎてレッドトップの原酒すら不足気味の現在、まず手に入ることはなかろうかと思われます。(ブラックトップも長らく品薄状態)
 ちなみにブラックトップが出る前には金色の封蝋を施したゴールドトップというのがあったのですが、これはもう、どこのバーでも姿を見ることができなくなりつつあります。おそらく販売終了のアナウンスを聞いて買い込んだ店にしかないのではないかと。わたしは2年ほど前に偶然にもありついたことがありますが、あれから1度も見ておりません。
 レッドとゴールドがどれくらい違うのかというと、それこそ↑上の文章のように非常に言葉にしがたいのですが、敢えて若かりし日のことをバラしますと、このふたつをそれぞれショットグラスでオーダーしてまずレッドを女の子に飲ませて、そのあと「これ、すっごく美味しいから飲んでみなよ」と言ってゴールドを飲ませる(その差はとんでもないので女の子はビックリして「美味しい~!!」を連発する)というのがわたしの常套手段でした。
そんなことができるほど違う、といえば両者の違いを理解していただけますでしょうか?(笑)