「クラッシャージョウ 1 連帯惑星ピザンの危機」(高千穂遥/1977) | 『Go ahead,Make my day ! 』

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【オリジナルのハードボイルド小説(?)と創作に関する無駄口。ときどき音楽についても】


銀河連合で唯一、専制君主制を敷く太陽系国家ピザン。国民に広く敬愛される国王が治めるその国で唐突にクーデターが発生する。
首謀者ガラモスの非道を訴えるため、一人で脱出する王女アルフィン。しかし、エマージェンシー・シップは一度のワープで燃料を使い切り、あとは誰かが救難信号に気づくのを待つしかない性能のものだった。
生命維持のためにガスで眠るアルフィンが目覚めたとき、目の前にいたのはならず者呼ばわりされる宇宙の何でも屋――クラッシャー・ジョウとその仲間たちだった。


連帯惑星ピザンの危機 (クラッシャージョウ1) (ハヤカワ文庫JA)/高千穂 遙

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今、タイトルを書いて「えーっ、そんなに昔の作品だったっけ!?」とか思ってしまいましたが。
日本で書かれたおそらくは最初のスペースオペラであるこの作品ですが、発行元である朝日ソノラマの解散でどうなることかと思っておりましたら、この度、ハヤカワ文庫に収録されることになったそうで。ま、高千穂氏のもう一つのスペオペ作品である「ダーティペア」シリーズがハヤカワから出ていることを考えると、落ち着くべきところに落ち着いたのかなという気がしますが。
(あと、知りませんでしたが本作は2000年に改稿されているのだそうで。道理で30年前の作品にしては読みやすいと思った……)

しかし、まあ。
これは今、新作として発行されたのであれば――正直、発行すること自体が難しいのではないかと。何と言うか、子供向けの童話を読んでいるような印象を持ってしまうのですね。文体自体は三人称の「~である」という感じの語りなので幼稚な感じはしないのにそう思えてしまうのは、やはりプロットがあまりにも「ありがち」だからだろうなと思います。

サブリミナルによる国民操作で起こるクーデター、助けを呼ぶためにたった一人で脱出する王女(しかも美少女)、そこに通りかかったために当てにならない銀河連合に代わって事態の収拾に乗り出す羽目になるヒーロー、訪れた途端の迎撃で仲間と分断され未開原野を残した惑星に墜落する二人、次々と襲い掛かる獰猛な野生動物――

えー、物語の作り方という本が書けてしまいそうな内容ですが、今だったらこれは編集者が「ボツ」にしてしまうだろうし、新人の作品なら最初から相手にされないでしょう。

もっとも、それでこの作品を評価するのはフェアではないわけですが。
これはまだスペースオペラというジャンルが確立される前の黎明期の作品なのですよね。むしろ、この時期に今ウケるような小難しい作品を出していても、おそらく成功しなかっただろうなと思うのです。宇宙を舞台にした単純明快なヒーロー物、というスペオペに求められる要素を余すことなく詰め込んだ初期の傑作なのは間違いありません。

日本においてSFが正当な評価を得てこなかったジャンルなのは否定できませんが、その中でも特に白眼視されてきたのがスペースオペラなのですよね。(この辺はミステリ界におけるハードボイルドと通じるものがありますが)
実際の話、日本で成功したスペースオペラというのは数えるほどしかなくて「クラッシャージョウ」と「ダーティーペア」、「銀河英雄伝説」、せいぜい「ARIEL」くらいじゃないでしょうか。それ以後もいろいろな作品が発表されてはいますが、ライトノヴェルとの境界線が曖昧――というか、正真正銘のラノベ――ばっかりですし。

海外でもSFとスペオペの境界線はかなり微妙なようで、ハードSFではないけど宇宙活劇(もっと古い表現だと宇宙西部劇 笑)と呼ぶのは憚られる作品は多いようです。また、初期の「科学考証?何それ?」から発展して、ハードSFとスペースオペラを融合させたネオ・スペースオペラというジャンルへ変化していってもいるようです。
むしろ、このジャンルは映像向きであるようで「スターウォーズ」や「スタートレック」、ややチープなものだと「キャプテン・フューチャー」や「キャプテン・ウルトラ」、最近だと「フィフス・エレメント」など、出来はともかく話題を呼んだ作品が並んでいますね。

今後の再興が期待できるジャンルかと言うと「どうよ?」という気がしますし、この「CJ」にしたって全巻揃えようかという気にはなりませんが、とりあえず、ソノラマ消滅で絶版にならなかったことだけ喜んでおこうかと思います。

そうそう、上では触れませんでしたが日本で一番成功した(質・量でもスペオペというジャンルの志向からしても)作品はこれではないかと。
コブラマジックドール 後編/寺沢 武一

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最近(でもない)コンビニで廉価版のコミックが並んでいて、初期のものから最近のものまで読み返す機会があるのですが、やっぱり面白いですね~。特に後期の作品はCGを使っていて画がかなり綺麗で、寺沢作品の華である「ちゃんとした服を着てないグラマラス美女」(笑)の美しさはペン描き時代とは雲泥の差です。
 
『Go ahead,Make my day ! 』-コブラ
そういえば子供の頃はこのよってたかってTバックが見てて恥ずかしかったな……。(今は摩滅しきったそんな感性)