ネヴァダ州のインテリのための博多弁講座 | 『Go ahead,Make my day ! 』

『Go ahead,Make my day ! 』

【オリジナルのハードボイルド小説(?)と創作に関する無駄口。ときどき音楽についても】

昨日の記事で、「砕ける月」が福岡を舞台にしているにも関わらず、登場人物がみんな標準語をしゃべっていることについて、
 
「これは方言から標準語への翻訳小説だ」
 
という暴言(?)を吐いた私なのですが。

 
izさんからも、

 
「博多が舞台なのに会話が博多弁じゃないことにどうしても違和感を感じてしまっていた私ですが(中略)、なるほど、自分で逆に翻訳し直して読んでよいのですね」

 
という、作者としては何ともありがたいやら面映いやらのコメントまで戴いてしまいました。
しかし、私としても方言でセリフを書いた経験はあまりないわけですし、ひょっとしたら方言でセリフを書いた方が、よりリアルな「福岡の女子高生」を描けるのかもしれません。
果たして方言と標準語では、どれくらいイメージが変わるものなのか。

 
実際にやってみることにしました。

 

選んだテキストは「砕ける月」第1回の冒頭、教室での榊原真奈と徳永由真の会話のシーン。
地の文まで方言表記すると、何が何だか分からなくなること請け合いなので、方言表記は「 」内のセリフのみ、としました。
なお、前エントリのizさんへのレスにも書いてますが、標準語⇔博多弁間の置き換えをするときには、私の中でのセリフのニュアンスが同じになるように言葉を選んでますので、一部、セリフの単語が違っていたり、意訳になっていることをあらかじめご了承ください。
あと、登場人物(特に由真)のイメージがかなり違ってくる可能性がありますので、くれぐれもご注意下さい(笑)。
 
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 教室の窓から見える空は、夏期講習という名の拷問で一日を過ごすことがやるせなくなるように、どこまでも澄んでいた。
 もし、夏色、という色があるのならば、きっとこんな色なのだろう。アタシは柄にもなく、そんなことを考えていた。
「――真奈ぁ、まだ終わらんとぉ?」と、由真が言った。
 教壇に置いた椅子に跨るように座って、背もたれの上で腕を組み、それに突っ伏するみたいにあごを乗せている。柔らかい顔のラインと整った目鼻立ち。退屈しきった子猫のように首を傾げて、構って欲しそうにアタシの眼を覗き込んでくる。
 お昼休みで、2-Aの教室にはアタシと彼女しかいなかった。アタシは机の上のプリントに視線を戻した。そこに書かれているのは解きかけの数学の問題なのだけれど、自分で考えたものにもかかわらず、そこにある数式は何かの(多分、眠気を催す系の)怪しい呪文にしか見えない。
 もう一度、空を眺めたくなる衝動に駆られた。けど、現実逃避を許してくれるほど、目の前の親友は優しくはなかった。
「もうちょっとやけん」
「さっきもそう言うたよね。ヨソ見しとったくせに。お昼ごはん食べる時間、なくなるよ」
「先に食べていいて言うたやんね」
「一人で食べるの好かんもん。あ、ひょっとしてダイエット中?」
「……せからしかね」
 由真は口をヘの字にして、大げさなため息をついた。
 アタマにくるのは、アタシがかれこれ三十分ほど格闘している問題を、コイツはものの数分で終わらせてしまっていることだ。メイクなんかしなくても十分アイドルで通用しそうなルックスと、志望校A判定を難なくもらえる明晰な頭脳。神様は不公平だ。
「教えてやるって言いよるのに」
「大きなお世話ったい。自分でせな意味なかろうがって」
「妙なとこで真面目なんよね」
 由真は諦めて立ち上がると、可愛らしく伸びをして、教室から出て行った。アタシはやりかけの問題に取り掛かった。
 ふと、入り口のほうでコンコンという音がした。顔を上げると、由真がドアのところから顔だけ出して「コーヒーで良かよね?」と言った。
 アタシは返事の代わりに手を挙げた。
 
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いかがだったでしょうか?
いやぁ、かなりキャラ変わってきますね(爆笑)。
これはこれで味わい深いものはあるような気がしますが、ただ、やっぱりハードボイルドの張り詰めた感じは……難しいですよね。
というわけで、今後も「砕ける」は標準語表記で行きたいと思います。

 

なお、表題は小峯隆生が昔、オールナイトニッポンでやってた「ネヴァダ州のインテリのための大阪弁講座」というネタからです(ってコレを知ってる人っているんだろうか……?)