資料に当たるということ。 | 『Go ahead,Make my day ! 』

『Go ahead,Make my day ! 』

【オリジナルのハードボイルド小説(?)と創作に関する無駄口。ときどき音楽についても】

作品連載中にこういうことをぶっちゃけるのもどうか、とは思いますが。


私は格闘技にはついては、やる方も見る方もまったくのドシロウトです。学生時代、顧問に騙されて3ヶ月間だけ柔道部にいたことはありますが。

ついでにいうと、バイクの免許も持ってません。日頃乗ってるのは原チャリ(これって全国区の言葉なのか?)ですしね。

MOディスクなんて触ったこともありませんし、医療用の電子カルテシステムなんて、病院にいったときに医者のデスクにあるのを見たことがあるだけです。

選曲をよく見ていただくとお分かりかもしれませんが、洋楽にもそんなに詳しくはありません。特に最近のはホントに分かりません。

あと、幸いにもまだ(?)人を殺したこともありません。


世の中には自分の職業的知識をうまく使った作品が多く(弁護士が法曹ミステリを書いたり、医者が医療ミステリを書いたり)、それはやはりその世界を知っている人が書く臨場感や、業界人にしか分からない裏話が散りばめられていて、非常に面白いものです。

しかし、創作をする上ではいつか自分の見たことも聞いたこともない事柄を、想像力という作家の唯一の道具を駆使して書く必要に迫られる訳でして。

しかし、人間の想像力というのは、あくまでも経験や体験の蓄積(及び、それに対する疑問や不満)から生まれてくるもので、一個人のそれにはやはり限界があります。

そのときに、その想像力を補うために必要とされる技術が「資料調査」です。

   

(閑話休題。この記事は、自分への戒めとして書いております。すっごくお堅い調子ですが、もう少しお付き合いくださいませ)

 

幸いにもインターネット時代の今日、資料に当たる作業は(以前に比べれば)極めて楽なものになっています。知りたいことに関連する語句で検索をかければ、よほど特殊なものでない限りは、知りたいことに触れたサイトを見つけることが出来ます。ウィキペディアみたいな便利なサイトもあります。

自作「砕ける月」で、この方法の資料調査を行ったものの代表は「電子カルテ」に関するものです。

作中のシステムそのものは実在しないのですが、そのシステム構成であったり、真正性の確保の為のファイル構成などは実在するものを参考にしています(作中では”登場人物の知識にないものは書けない”という制約で触れていませんが、モデルにしたシステムは外部のサーバにバックアップを取るようになっていて、一度、外部サーバに保存されてしまうと、病院側のデータにだけ介入しても無意味なのです。作中で”カルテすり替え”などという面倒なことをしているのはその為)。

他にも主人公・榊原真奈が乗っているバイク、スズキ・バンディット250V(これは製造終了した機体なのでメーカーサイトには資料がなくて、ファンサイトを探しました)やMOディスクに関すること、音楽関連の知識など、多くの資料をインターネット上で見つけることが出来ています。

 

資料に当たることの有用性は、その大半は「間違いを書かずにすむこと」と、ひょっとしたらそれ以上に「仕入れた知識が更に想像力を刺激すること」にあるのではないかと思います。

実際、電子カルテについてもサラッと流すことも出来たのですが、実は高橋拓哉(作中ではフクロにされて入院中のコンピュータ・マニアの少年)や、梅野浩二(真奈の舎弟?)のキャラクター設定は、この調査から生まれてきたものだったりします。

それともう一つは(これはネット上のモノよりも出版物のような紙媒体の方が有用のようですが)、その世界の独特の文脈が分かるということです。

こちらは格闘技関連で実感したことでして、単語の選び方(ロー・キックなのか、下段回し蹴りなのか)もさることながら、技の解説文のリズムが、そのまま格闘シーンの言葉のリズムに(そのままではありませんが)流用できたりしました。他にも傍目では理解できない動きの理屈や、その世界の住人独特のモノの考え方などが大いに参考になっています。

主人公を空手の遣い手という設定にしてからというもの、今までは立ち寄ることなどなかった書店の格闘技関連コーナーで延々立ち読みしたり、適当に流し読みしていた格闘シーンをじっくり読むようになったのですが、おかげで最近は「あ、このヒトは実際にやってるな(またはそれだけ調べてるな)」とか「あ、格闘ゲームのイメージで書いてるな」とかいうのが、何となく感じられるようになってきてます。

偉そうなことを言っても、自分の描写がどのレベルにあるかは、自分では分かりませんが。

 

以前にキャラクター設定関係のエントリでも書きましたけど、読者が読みたいのはあくまでも「ストーリー」であって、設定資料や取材メモではありません。しかし、一方でこういうものを軽視して適当なことを書くのも(個人的には)感心しないのですよね。

明らかな間違い・勘違いがせっかく積み上げた虚構世界のリアルさを台無しにしてしまうことは、プロの作品でも散見することです。もちろん、ストーリーの要請上の理由で意図的に事実を曲げたりすることはありますが、それならその「ダウト」をリアルに見せるだけの仕掛けが必要になります。

そして、やはりそれは綿密な取材や資料調査からしか生まれてこないと思うのですが……。

 

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ちなみにこちらが榊原真奈の愛機、スズキ・バンディット250Vです。日本の低排気量バイクには秀逸なデザインのものが数多くありますが、これは際立ってセクシーなデザインだな、と思いますね。女性が乗って格好良いというか、むしろ女性向きのバイクじゃないかと……(男性オーナーも数多いようですが)。

バンディット(山賊、ならず者)というネーミングとのミスマッチぶりもなかなかです(笑)

 

bandit