■「今はちょっと、ついてないだけ」50代男性へのおすすめ度

★★★☆☆ ← 50代男性が読むと前向きな気持ちになれそう

 

今はちょっと、ついてないだけの表紙

 

 

 

■あらすじ

内容紹介(「BOOK」データベースより)
かつて、世界の秘境を旅するテレビ番組で一躍脚光を浴びた、

「ネイチャリング・フォトグラファー」の立花浩樹。
バブル崩壊で全てを失ってから15年、

事務所の社長に負わされた借金を返すためだけに生きてきた。
必死に完済し、気付けば四十代。

夢も恋人もなく、母親の家からパチンコに通う日々。
ある日、母親の友人・静枝に写真を撮ってほしいと頼まれた立花は、

ずっと忘れていたカメラを構える喜びを思い出す。
もう一度やり直そうと上京して住み始めたシェアハウスには、

同じように人生に敗れた者たちが集まり…。
一度は人生に敗れた男女の再び歩み出す姿が胸を打つ、感動の物語。

 

目次(「BOOK」データベースより)
今はちょっと、ついてないだけ

朝日が当たる場所

薔薇色の伝言

甘い果実

ボーイズ・トーク

テイク・フォー

羽化の夢

 

■キーワード

中年の男女、アウトドア、テレビ番組、カメラ、撮影、メイク、スタッフ

 

■感想

・上り調子ではない人たちのお話

「ここのところ、つまずいてばかりでいいことないから、

気持ちだけでも前向きにしたいな。」

 

と思っているおっさん達にお勧めの本です。

 

人生イケイケ!

 

これからドンドン面白くなりそう! 

 

そんな人たちは「今はちょっと、ついてないだけ」には登場しません。

 

 

人生につまずいている。

 

先が見えにくくなっている。

 

そんな人たちが登場する本です。

 


 

伊吹有喜(いぶきゆき)さんの小説を読むのは、

この「今はちょっと、ついてないだけ」がはじめて。

 

結論から言うと、まあまあ面白い本でした。

 

 

タイトルを読んだとき、今の自分と重なる部分があるような気がして、

タイトルに引かれて手に取った感じです。

 

50代のおっさんが読むと身につまされる部分があるかもしれません。

 

私も「40歳過ぎたらつらいよな」と思いながら読んでいました。

 

 

だけど、最後まで読むと、ちょっと前向きな気持ちになれると思います。

 

「最近、ついてないんだよね」と思っている方々、ぜひ読んでみてください。

 

・短編の出来に良し悪しがある

「今はちょっと、ついてないだけ」は、連作短編の小説です。

 

7つの短編で構成されています。

 

1つ目の短編「今はちょっと、ついてないだけ」に登場する人たちが、

7つ目の短編「羽化の夢」まで続けて登場します。

 

途中の短編でサブキャラクターが増えていって、

話にふくらみが増し、面白くなっていくという構成です。

 

 

そんな構成ですが、何編か読み進めていくうちに

「短編の出来に良し悪しがあるな」と感じました。

 

私の好みもあるとは思いますが、作者が得意な分野と、

そうでない分野で話の出来に差があるように感じました。

 

 

はじめの2編「今はちょっと、ついてないだけ」と「朝日が当たる場所」、

最後の短編「羽化の夢」はもう一つの感がありました。

 

それらは残念な部分です。

 

一方、4編目の「甘い果実」は、とても良かったです。

 

・4編目の「甘い果実」が良かった!

「甘い果実」は、佐山さんという女性が主人公の物語で、

この連作短編の4つ目の短編です。

 

佐山さんは、

3つ目の短編「薔薇色の伝言」に出てくるサブキャラクターです。

 

 

1つ目と2つ目の短編は男性が主人公の話なのですが、

文章の雰囲気に物足りなさを感じていました。

 

どうしても女性作家が書く男性という文章になっているように感じられ、

まだるっこさを感じていました。

 

 

ところが、「甘い果実」では、

文章に勢い(自信)が感じられるようになりました。

 

そうです。

 

女性が主人公の話になってから、いっきに面白くなりました。

 

「甘い果実」は、読みやすい文章に加え、

物語の世界に入り続けていられる心地よさがありました。

 

 

佐山さんの心のしこりがどんどんなくなっていって、

解放されていって、読んでいて気持ちがいい物語でした。

  • 女性だって我慢する必要はないのだから、自己責任でどんどんやればいい。

  • 金だって遊ぶために貯めているんだし。

と、私は佐山さんの行動を応援する読者になっていました。

 

女性の心と体の解放と、素直な感情の変化が読み取れるとても良い短編でした。

 

・伊吹有喜さんの文章を読んで

伊吹有喜さんの文章を読んで感じたことを書きます。

読みやすく、好感が持てる

  • 平易な文章で読みやすくて良い。

  • 「一生懸命に考えて書いている」のが伝わってくる。

全体的に優しいトーンの文章で好感が持てました。

 

圧倒的に、女性が主人公の話の方が面白い

繰り返しになりますが、

主人公が男性のときと女性のときで面白さに違いがありました。

 

圧倒的に、女性が主人公の話の方が面白かった。

 

これも前に書きましたが「薔薇色の伝言」と「甘い果実」は面白かったです。

 

 

男性が主人公の話は、

中年男性の雰囲気がおっさんの私からすると物足りなかった。

 

「ちょっと違うんだよな」という感じはしたものの、

まあ許容範囲ではありました。

 

ただ、差が明確にあったので感想として書きました

ということです。

 

そんな中、私が気に入った文章がいくつかありましたので、ご紹介します。

 

■私が気に入った文章

1.夜の店でやればホステスだ

「菜々子、あのな。

お客に食い物やドリンクを運んでくつろがせるのを

飛行機でやればキャビンアテンダント、

地上でやればウェイトレス、夜の店でやればホステスだ」
「何を言い出すの? その言い方、どの職業も馬鹿にしてない?」
「馬鹿になどしていない。するはずがない。

つまりな、権威ある組織の下(もと)でやれば、

人の見方が違うって話だよ。

バレエ団がやれば芸術、よくわからん集団がやったら裸踊りだ」
「そんなふうにしか見られないの?」

(65ページ)

 

父親とバレエを習っている19歳の娘の会話です。

 

父親の権威主義まる出しの会話に、娘が愛想をつかしているところです。

 

何が気に入ったかというと「夜の店でやればホステスだ」の部分です。

 

面白い発想のお父さんだなと思ったのと同時に、

女性作家がこんなこと書くんだという驚きがありました。

 

2.この人から買いたい!

どれほど心をこめて似合う色を選び、

メイクのアドバイスをしたところで、最近の客たちはその場で買わず、

インターネットで同じ品物を安く買ってしまう。
それを防ぐには結局、「この人から物を買いたい」と思わせる

セールス・トークや人間的な魅力が必要なのだが、

そうした力が自分には備わっていないようだ。

(83ページ)

 

化粧品にしろ何にしろ競争相手が隣の店ではなくなって、

世界中のインターネットショップになっているのだから、大変ですよね。

 

ちなみに、

インターネットの世界でも「この店で買いたい」というのはあります。

 

個人の力(スキル)をどんどん高めていかないと、

世界からおいていかれて仕事がなくなってしまう。

 

そんな風に感じています。

 

3.ライトナウ

「セブンデイズ、ユー ビロング トゥ ミー」
七日間、あなたは私に所属する。
「モア、ハニー?」とニョマンが微笑む。
「イエス、モア ハニー ライトナウ」

(151ページ)

 

「ライトナウ」(right now)って

英語初心者にはなかなか難しい単語だと思うんだけど、

よくここで使ったよなと思って取り上げてみました。

 

しかし、

カタカナで英会話文を書くと間抜けに見えますね。

 

「今はちょっと、ついてないだけ」をネットで翻訳してみたら

「I just don't get it right now.」でした。

 

もしや表題とかかっていたりして。

 

4.グラビアアイドルじゃないんだから

立花がファインダーをのぞいた。
「セクシーに撮ります。笑いは抜きで」
はい、と素直に会田は答える。
水音にまじってシャッター音が響く。
その音を聞いていたら、自分が本当に生まれ変わったような心地がした。(230ページ)

 

撮影者もモデルも、どちらも40歳過ぎのおっさんです。

 

そのおっさんが、

シャッター音を聞いて生まれ変わったような気持ちになるなんて、キモ!

 

グラビアアイドルじゃないんだからって、思わず笑っちゃいました。

 


 

今回は、50代男性が読むと前向きな気持ちになれそうな

「今はちょっと、ついてないだけ」を紹介しました。

 

実は私、

「今はちょっと、ついてないだけ」を読んでいたら昔の出来事を色々と思いだして、

謝らないといけない人たちのことをたくさん思い出しました。

 

センチメンタルになってしまった感はありますが、

物事を前向きにとらえ頑張ろうという気持ちも同時に沸き起こりました。

 

人間の感情って面白いですね。

 

 

このブログが少しでも小説選びのお役に立ちましたら幸いです。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。