この本を手に取ったのはBSのあのほんよみました?で湊かなえがこの本ではイヤミスを封印したというのを聞きイヤミスの女王が看板下ろしてどうすんだと思ったからです。
そもそもイヤミスの系譜は宮部みゆき、桐野夏生といった女流ミステリーが編み出した時代的な必然から出てきたようなものでコロナや温暖化と厳しい世の中を経てそう来たかと思うところもあり手に取りました。
それにしてもこの題はどうしたことかと思わせます。
直ぐにバッハのG線上のアリアが頭に浮かびますが、同時にパガニーニがモーゼ幻想曲をG線だけで弾いたとかヴァイオリンのヴィルトオーソを思い浮かべ、実際にG線だけで演奏してみせた演奏家などを思い出します。
そもそもC線なんてないし、サザンのC調言葉に騙され~の歌詞が頭に去来しますが、それはハ長調の軽い乗りの言葉にということであり、まあつまり色々なものを貶めている感じか既にしていてちっともイヤミス封印感はないのです。
それに私は村上春樹ファンではないですが、世界中にいる熱狂的なファンを敵に回すかのようなノルウェイの森の使い方で、ファンでなくても深い緑の下巻と赤い上巻の装丁は直ぐに浮かぶしビートルズの曲も浮かびます。
あの曲がマージービートでもなく不思議なシタールの調べで幻想的なヒッピー文化が薫るような曲調ながらこの小説のお陰でなにか新解釈が加わったようなその世界に真っ向から挑戦するかのような下巻から読むとか上巻を読んだらもう下巻は読まないとかもうやはりイヤミス全開じゃんと感じちゃいます。
とはいえ読み始めると50題後半という主人公が実の母でもない叔母の介護とごみ屋敷と化した大きな家の清掃という高齢化社会でよくある出来事をこの50代後半の女性の視線で展開していくのですが、普段ネットなどで読まされる素人のひどい文章から比べるとはるかに気持ちのよいしかし、私の回りの同年代の人はこういう風にものを見てこういう風にかたっていることと頭にあることがこう映っているのかと感じられ実に居心地の悪い感じもします。
そして見事な伏線と最初はノルウェイの森の引用から恋愛小説?不倫?とか思いますが、今はボケてしまった老人のかつての記憶が介護により、はたまた絶妙な命の水の効果で蘇り過去があぶり出されごみ屋敷の発掘で日記という記憶の記録も出てきて舞台はお互いの家を探るスパイ合戦のような家事交換といった形で過去が再現され事件が起き伏線が回収されと実に見事な緻密な構成なのです。
出てくる便利屋とか介護施設とかの名前も村上春樹の小説なら現実の固有名詞やら商品名をそのまま使いますが、マンガなどでよくある本物に似せてもじったよう架空の名前や団体名の使い方ながらお店の名前から介護施設からみんな自然な感じにどこにでもありそうな名前でそして主人公のとる行動も極当たり前に新しいことでもなく今風のネットを利用したりスマホからみたりしてものごとを解決しと現代的指針のような結末までなんとなく納得させる説得力もあり自己肯定的なおわり方とか今までの小説とは一線を画しています。
まあつまりはむずかしこともなくすんなりだれでも読める介護ミステリーといえるのではないでしょうか。
音楽ファンとか村上ファンを敵に回しそもそも読書家の人にもばかにしたように上巻しか読まないとか下巻から読んで上巻を読まないとか気持ち悪くてしょうがない気持ちにさせるし、それが緑が好きだからといった嗜好の問題に置き換わったり自分のカラーで固めるタイプの批判や色で見る田舎者の視線とか地方の偏狭さも腐していてとにかくおばさんの視線は怖いなと思うのです。