戒 | Talk'n Blues

戒

誰もが眼を背けて歩いた。
野良犬似のその男はそれに気付かぬ素振りで遠吠え。
或いは煙を吐く。
吸殻を躊躇いなく歩道へ。

火は消えない。
熱は失せない。

それを誰もが見ていた。

職務に忠実な警官も
エコロジーを謳う若者も
箒を携えた主婦も
携帯灰皿を片手に気取ったサラリーマンも
何も知らない小学生も。

誰もが見ていたはずだが何喰わぬ顔をして殻に閉じ籠る。

男は刹那、悲しげな表情を浮かべたがすぐに野良犬の顔を取り戻して大股で闊歩し始める。

男には世界の全てが自分を無視する存在だった。
世界は男を忌み、
男は世界を忌んだ。
男は世界の敵であり、
世界は男の敵だった。
部屋で、一人で過ごす時間が一番、寂しくなかった。
周りに人が存在する事が己が一人だと最も痛感する。

一人になる のと
一人にさせられる、のは違う。
だが部屋で一人を満喫した後、人恋しくなり男は忌むべき世界へと己が身を投じる。
たとえ全てが敵でも人間は一人で生き抜く事は不可能だと男は知っていた。

聡明なばかりに男は苦痛を
受け入れる。
希望は一つだけ。
時が過ぎ行き、自分を認めてくれる誰かが現れる事。
今、を耐える事。
今、は見ない様に。
今、を切り捨てる。

自分が生きる現在を見ずに
未来のみを見つめる男はいつか、
時の番人に裁かれるのか。

野良犬に似た男だ。
野良犬に似た男だ。

遠吠えが聞こえる。