The Impressions / "People Get Ready"
青に茶を混ぜたような
性格をしているのに
よくそんなに元気でいられるなと
我ながら思っていると
案の定、揺り戻しが来た
それは休日にやってきて
結果的に何も手につかない
何もかもやりかけで忘れて
すべてを後に回してしまう
積み上がった食器
包みかけのラップ
内容の覚えていないレコード
ふきだまりの埃
その全てが一つの空間で停滞して
空気の抜かれたタイヤのように
地面に気怠く身を任せている
僕もその中に溶けながら居て
何も感じなくなるのだから
楽というのは恐ろしい
つぎ込んだ時間が金になり
時間はそのまま欲に変わるのだが
欲が形になって、ろくなことはない
ネックがぽっきりと折れたマンドリン
9時間と大層な笑顔と摩擦
欲に変わるにはどうやら
首の線が細すぎたのだ
寝る前に山之口獏の詩を
ひとつ読むことにしている
明確に言葉が弾んでいる
うねうねと言葉が動き
やがて立ち上がっていく姿を見るようだ
今日という日はここまで、と
寝床で自然と時間が仕切られる
文という文字の並びから
詩という芸術表現になるまでの
その過程を生々しく見せた詩人は
彼を置いて他にいない
鋭い切先を望むべくではないが
大木で頭を叩かれたいのなら
一度覗いてみる価値はおおいにある
暖かくほっこりとしたコーラス
包み込むようなカーティスの歌声
シリアスな側面で語られがちな
インプレッションズの音楽も
冬になればこんなに実用的な音楽になる
パラパラと綺麗な星空が落ちてくる
"People Get Ready, There's a Train a Commin'
You Don't Need no Baggage, You Just Get on Board
All You Need is Faith, Hear The Diesels Hummin'
You Don't Need no Ticket, You Just Thank The Lord"
準備はいいか、列車がやってくる
荷物はいらない ただ飛び乗るだけ
信心があればいい ディーゼルの音を聞き
チケットはいらない 主に感謝すれば
もうすぐクリスマス
Imagineよりも大切な歌
Doc Cheatham & Nicholas Payton / "Same Title"
僕は季節を駆け抜ける
木枯らしが吹くよりも早く
冬よりも先を走っていく
大きな冷気が僕の下を覆っていて
包まれた街が止まっている
やけに動きの悪い自動車が
どこかの壁にぶつかって
くるくると虚しく後輪を回し
運転手が助けはまだかと
しきりに叫んでいた
僕は季節を渡る
鳥よりも密かに足並みを揃え
灯りよりもぼんやりと姿を現す
突き刺さるような月が空に浮かんで
尻と背中を隠している
もう少しで見えるだろうその姿態を
覗くようなふりをして
猫が風を縫って行き
軽やかな口ぶりを失わず
またあの草の中に消えていく
がちゃりと重い音をたてた頭の中
何を取り出すかと思えば
他愛もない人生論
くだらない、と思った
いっそのことどこかの
畑に植えてしまえばいいのに
そしたらいくつか芽が出て
甘ったるい実が成るだろうに
冬がやってくる
いずれ訪れることになる街にも
そしらぬ顔で通り過ぎるあなたにも
暖炉に薪は足りているか?
燃やすものがない冬など
ミシンと何ひとつ変わらない
かたかた回るだけの糸車に
誰も振り向きはしないのだから
火を付けよう
ドク・チータムのトランペットのように
若々しく鮮やかに
どんな奢りも許される無反省な
明るい邪心を聞かせてやれ
"世界は日の出を待っている"
固く絞った結び目をほどきながら
ぽろぽろと流れるものは
きっとどんな明るい旋律よりも
今なら美しく聞こえるに違いない
Azzola・Caratini・Fosset / "Valse Blues"
先日、新しく帽子を買った
選ぶのはなかなか困難で
顔の形とうまく合わせなければいけない
店先でああでもないこうでもないと
取っ替え引っ替えしていく
帽子はかぶっていると
自分が誰だかわからなくなるから
ずーっとしていても飽きない
あれもこれもかぶってみる
そのうち、見つかった
全体の形がふんわりとしているやつ
黒くてつばのついた
かぶってみると
自分を認めて欲しくなるような
そんな気がする
自信がついたようで可笑しい
マフラーも合わせて買った
緑で生地が薄いやつ
もともと緑という色が好きなので
ひったくるように買った
タグを見ると
Made in Scotlandと書いてある
それほど馴染みがない国でも
ちょっと誇らしい
冬になると
みんな変身する
ほかでもない自分なのだけど
外套を羽織ったり
帽子をかぶったり
マフラーを巻いたり
自分である部分を隠そうとする
まるで玉ねぎに似ている
たくさんの皮の中に
瑞々しい水分を含んでいるのに
Marcel Azzola, Patrice Caratini, Marc Fosset/
"Valse Blues"
フランスのomdレーベルから出ている
異色とも言えるフレンチ・スウィングの名盤
とにかく変わっている
ドラムレスのアコーディオントリオ
という編成も面白い
何よりも
曲がどれも不思議な展開を持っている
ほとんどが三人の自作になるのだが
プログレッシブ的とでも言うのだろうか
一筋縄ではいかない
もうひとつ面白いのは
ブルーズをやっているのに
ブルーズに聞こえない
ジャズをやっているのに
ジャズに聞こえない
という無国籍性にある
三者の向かっている方向は
名前のついた音楽ではない
何かを目指している
そして
不思議と暖かい
杉の木の香りのような
深い青みをこらえている
季節は今が旬だろう
音楽にも
食べ頃というものは存在する


